(山本一郎:財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員)
兵庫県知事の斎藤元彦さん、PR会社「merchu(メルチュ)」の折田楓さん、そしてNHK党(N国党)の立花孝志さん。このややこしい三者をめぐる疑惑と法的問題が、日本の政治において極めて憂慮すべき状況を生み出しています。「Xデーも近い」と予定稿作成に励む私たちに、女神は微笑んでくださるのでしょうか。
もともとの発端は、昨年11月の兵庫県知事選において、不信任決議を受けて辞職した斎藤さんが再選したところから始まります。それまでは、県庁職員に対する斎藤さんの県知事の職務における度重なるパワハラという嫌疑ぐらいだったのに、どうしてこうなった。
この兵庫県知事選で、立花さんは斎藤さんに対する「アシスト」目的で出馬し、俗にいう「二馬力選挙」に打って出るかたわら、折田さん率いるPR会社が対価を得ていたにもかかわらず選挙期間中に具体的な選挙活動に関与したことが折田さん本人のご自慢note記事で公表されたことから、公職選挙法違反疑惑が持ち上がりました。大変なことです。
結果として、大正時代から続く公職選挙法とネットでの活動を巡る問題が詳らかになると同時に、この三者による癒着と疑惑は、民主主義における選挙の公正さを揺るがしていると言っても過言ではありません。
みんな「問題だよな」と思っているけど、いまの公職選挙法の規定だけで摘発できるのかと顔を見合わせているうちに、知事・斎藤元彦さんの『パワハラ』告発した県幹部が自殺してした上に、前兵庫県議だった竹内英明さんが県議辞職後に自宅で自死されてしまいました。竹内さんの自死は、立花孝志さんやその周辺の流すガセネタや犬笛による心労とみられています。
さらに、立花孝志さんのNHK党の後継団体でもあるみんなでつくる党のボランティアスタッフだった岩井清隆さんが、誹謗中傷や脅迫的な被害を受けた末に、自殺に追い込まれてしまうなど、政治活動・公職選挙とSNSの関係で複数の死者を出してしまう事例に発展したわけであります。
女子プロレスラー・木村花さんのテレビ番組上の演出を起因とする自殺でもネットと誹謗中傷は大きな社会問題となりましたが、一方で、一連の斎藤元彦さん、立花孝志さんとその周辺の面々による問題は置き去りとなっています。なかなか摘発に踏み切れない兵庫県警や神戸地検に対して、「どうなっているのか」という声が大きくなっていたのは当然とも言えます。