「初めて恐怖を感じました」と話すのは、眼科に駆け込んだ男性(56)。単なる飛蚊症(ひぶんしょう)だと放置していたら、どんどん症状がひどくなっていったという――。
■薄いカーテンがかかった感じ
ある日、鈴木俊朗さん(仮名)は左目に飛蚊症のような症状が起こっていることに気がついた。飛蚊症とは、その名のとおり視界に蚊やゴミのようなものが見えて、目がチカチカする症状のこと。
大丈夫だろうと思って放置していたら、どんどん悪化していったという。
「2週間ぐらいで“目の前に薄いカーテンがかかっているみたいな感じ”になって、よく見えなくなったんです。これはちょっとおかしいぞと思い、職場近くの眼科を受診しました」と鈴木さん。
この胸騒ぎは当たってしまう。診察をした医師から「網膜剥離で失明の危険性がある。すぐにでも総合病院または専門病院へ行くように」と言われてしまったのだ。網膜剥離とは、眼球の内側を覆う網膜が何らかの理由で眼球から剥がれた状態をいう。日本眼科学会によると20代と50代に多い。
鈴木さんは紹介状を持って総合病院で精密検査を受けると、やはり網膜剥離との診断だった。すぐに入院・手術の日程が決まった。
「モノが見えづらいけれど、特に痛みがあるわけでもない。だから最初はまったくピンとこず、実感がわきませんでした。でも、“失明の危険性がある”と言われたとき、初めて恐怖を感じました」と、鈴木さんは振り返る。
網膜剥離の原因はよくわかっていないが、加齢やストレス、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー、遺伝などが関係するとされている。鈴木さんの場合は、加齢、ストレス、花粉症が当てはまるものの、家族で網膜剥離になった人はいない。
「かなり前にレーシックの手術をしていたので、気になって聞いたんですが、それが原因ではないと言われました」(鈴木さん)
■1日中「うつ伏せ」の苦痛
最初の受診から2日後。鈴木さんは総合病院に入院し、翌日には手術を受けた。「硝子体顕微鏡下離断術(しょうしたいけんびきょうかりだんじゅつ)」というなんとも難しい名前の手術と、「水晶体再建術」を組み合わせたものだった。
どんな手術なのかは後述する医師の解説に委ねるが、手術は約1時間で終了。失明の恐怖からは逃れることができた。麻酔の影響もあって特に痛みがなかったので、「ホッとした」という鈴木さん。