色恋を餌に、言葉巧みに金品を引っ張る――。「いただき女子」りりちゃんによってマニュアル化された“錬金術”は、若い女性の専売特許ではなかった。60代、詐欺を重ねてきた男が年下女性からカネを巻き上げた、その手口とは?
人気のマッチングアプリで妙齢の女性を探す詐欺師
JR新宿駅近くの喫茶店。煙草の煙が充満する店内に、男は悠然と座っていた。
ストライプのシャツにジャケットを羽織った男に記者が名刺を渡し要件を告げると、態度は一変。伝票を掴むや出口へと突進し、捨て台詞を吐いた。
「こんなところでお前に話すことはないっ! 金なら返す! 今はこれしかないっ!」
そう言うと1万円札を出し、釣り銭を受け取ると足早に店を去った。4月某日のことだ。
男の正体は、資産数十億円を自称し、妙齢の女性を相手にマッチングアプリで詐欺行為を繰り返す人物だ。SPA!取材班は、男の“毒牙”にかかってしまった女性に接触。その手口を聞いた。
「応援するし、出資もする」会ったその日に本気モード
「自分の貯金を丸ごと。親からも借りて、総額800万円を騙し取られました。悔しくて仕方ありません」
手を震わせ詐欺被害を訴えるのは、都内の美容クリニックで看護師として働く西村梨沙子さん(仮名・46歳)。彼女が詐欺師と出会ったのは、累計会員数2000万人を誇る人気マッチングアプリだ。
「相手は60代で年齢は結構いってたけど若々しい雰囲気で、文面も丁寧。何より経済的に裕福そうな雰囲気に惹かれました。初顔合わせは帝国ホテルのラウンジ。シンガポールに20億円の資産があると聞き、ラフな服装も本物のお金持ちだからと思ってしまった」
富豪との出会いに、舞い上がってしまったという西村さん。だが、その心理状態は詐欺師にだだ漏れだった。「コンサル会社会長」を自称する詐欺師は、言葉巧みに西村さんを誘導し始めたのだ。
「将来の夢を聞かれたので、私がダイエットビジネスをやりたいと話すと、『全力で応援するし、出資もする』と言ってくれて。500万円を即決してくれたんです。同時に『大好き』『魅力的な女性で活力をもらえる』なんて口説かれて、私は富豪に見初められたんだと勘違いさせられてしまった」
出資するはずの500万円は西村さんの手に渡るどころか、逆に“立て替え”を頻繁に頼まれるようになった。
「彼の会社が新規事業を立ち上げるのに保証金が必要で、国際送金の都合で立て替えてほしいとか、ホテルの宿泊費とか……。『あとで返す』と自信たっぷりに言うので疑う気持ちは芽生えませんでした。機嫌を損ねちゃいけない、関係を悪くしてはいけない一心でお金は用立てました」
リターンをにおわせ、性愛も金品も貪る。この「いただき」の手口に気づくには、西村さんはあまりに無知だった。