参政党が勢いを増し、政界での存在感を高めています。東京科学大学医学部臨床教授の木村知医師は、同党が掲げる「日本人ファースト」というスローガンについて深く掘り下げ、その内実が必ずしも全ての日本人に向けられたものではない可能性を指摘しています。特に高齢者医療に関する公約は、優遇される日本人とそうでない日本人との間に分断を生む危険性を孕んでいると警鐘を鳴らしており、その具体的な内容と過去の類似政策との比較を通じて、その真意と影響について詳細に分析します。
「日本人ファースト」の陰に潜む“序列”
参議院選挙が目前に迫る中、自公政権の過半数維持が微妙とされる状況で、「日本人ファースト」を掲げる政党、参政党が躍進を見せています。「外国人への優遇は許さない、私たち『日本人』がまず優遇されるべきだ」という主張は、多くの人々の共感を呼ぶかもしれません。しかし、木村知医師の分析によれば、この「日本人」が誰を指すのか、その内実を精査する必要があるといいます。
参政党の公約を読み込むと、「ファーストとされる日本人」が、この国に住む全ての日本人に当てはまるわけではないという懸念が浮かび上がってきます。「日本人」の間に序列が生まれ、ある層は優遇される一方で、別の層は生存すら諦めざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある、というのです。
参政党の高齢者医療・終末期医療政策の詳細
この懸念の根拠となるのが、参政党がホームページで公開している高齢者医療に関する具体的な公約です。同党は、多くの国民が望んでいない「終末期における過度な延命治療の見直し」を掲げています。
公約には、以下の内容が明記されています。
- 70歳以上の高齢者に年間22兆円、特に85歳以上では一人あたり100万円を超える医療費がかかっている現状を指摘。
- 終末期における過度な延命治療が高額医療費を押し上げる一因とし、欧米でほとんど行われない胃瘻・点滴・経管栄養等の延命措置は原則行わない方針を提示。
- 本人の意思を尊重し、医師の法的リスクを回避するための「尊厳死法制」の整備。
- 事前指示書やPOLST(生命維持治療に関する医師の指示書)の活用による、医師の迅速かつ適切な判断プロセスの徹底。
- 終末期の点滴や人工呼吸器管理等の延命治療が保険点数化されている診療報酬制度の見直し。
- 終末期の延命措置医療費の全額自己負担化。
これは、医療費削減という文脈で、終末期医療のあり方を根本的に見直そうとする、非常に踏み込んだ政策と言えるでしょう。
参政党の神谷宗幣代表が日本記者クラブ主催の党首討論会で発言する様子。
過去の政策と酷似?繰り返される議論の歴史
この参政党の公約、特に「延命治療の自己負担化」や「尊厳死法制化」といった提案を目にした木村知医師は、「またこんな使い古しの政策を出してきたのか」という感想を抱いたと述べています。というのも、これまでにも同様の政策を医療費削減の文脈で訴える“学者”や政治家は幾度となく現れては、有識者や医療経済学者から厳しい批判を受け、その都度、発言の撤回や修正を余儀なくされてきた経緯があるからです。
記憶に新しいのは、2022年10月12日、衆院選公示を目前に控えて行われた記者クラブ主催の党首討論会での出来事です。国民民主党の玉木雄一郎代表が、社会保障の保険料引き下げのために「高齢者医療、特に終末期医療の見直しにも踏み込みました。尊厳死の法制化も含めて。こういったことも含めて、医療給付を抑えて、若い人の社会保険料給付を抑えることが、消費を活性化して、次の好循環と賃金上昇を促すと思っています」と発言しました。
この発言は、「現代の姥捨山だ」という激しい批判を浴び、「火ダルマ」となって発言の修正と「火消し」に追い込まれたことは、多くの人々の記憶に残っているでしょう。驚くべきことに、この国民民主党の政策と参政党の現在の公約は、まるで「瓜二つ」であると木村知医師は指摘しています。
結論:政策の多角的な評価と議論の必要性
参政党の「日本人ファースト」というスローガンと、それを具体化する高齢者医療・終末期医療政策は、一見すると日本の医療財政の課題解決を目指すもののように見えます。しかし、その内実を深く掘り下げると、特定の人々を切り捨てるような「分断」のリスクを孕んでいることが、木村知医師の分析と過去の事例から浮き彫りになります。
特に、終末期医療費の全額自己負担化や尊厳死の法制化といった内容は、過去に激しい議論を巻き起こし、批判を受けてきた政策と酷似しています。医療のあり方、社会保障の未来を考える上で、これらの政策がもたらす影響を多角的に評価し、国民全体で建設的な議論を深めることが不可欠だと言えるでしょう。私たちは、スローガンの裏に隠された具体的な政策内容に目を向け、その真の意図と影響を見極める必要があります。
参考文献
- PRESIDENT Online: 参政党が躍進している。東京科学大学医学部臨床教授の木村知医師は「日本人ファーストの、“日本人”とは誰なのか。公約をみると、優遇される日本人と、優遇されないばかりか、生存さえ諦めねばならない日本人とに分断される可能性が見えてくる」という――。 (2025年7月17日閲覧)
- Yahoo!ニュース: 「日本人ファースト」の“日本人”とは誰のことか…国民民主党の“姥捨て山政策”に瓜二つ「参政党」の大問題な公約 (2025年7月17日閲覧)