廃業寸前だった実家の米農家を継ぎ、経営の立て直しに奮闘する東大卒の米農家「米利休(こめのりきゅう)」氏(26歳)。農業を始めた当初、販路を拡大するためには、SNSの投稿で「認知を得ること、まずはバズることが正義」だと思っていた。
TikTokでは初投稿がいきなり1日で200万回再生され、2万人以上にフォローされた。現在は6万フォロワーを超える。Instagramは約18万人(2025年5月時点)を誇るアカウントにまで成長した。
「東大卒×農家」というレアな組み合わせを武器に、米利休氏が仕掛けている「農業」のコンテンツ化とは――。
米利休氏の著書『東大卒、じいちゃんの田んぼを継ぐ 廃業寸前ギリギリ農家の人生を賭けた挑戦』(KADOKAWA)から、東大卒米農家のSNS戦略についてお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全4回の第4回。第1回を読む】
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視聴者が応援したくなる存在は可能性を感じさせる弱者
SNSでは今、何者でもない人(=弱者、無名な人)が成功者(=強者)になるドキュメンタリーに、需要があります。僕のアカウントも、弱者が強者になっていくというドキュメンタリーの構図に当てはまるような発信を心がけています。
なぜなら、人間は判官贔屓だから。自分よりも立場の弱い人を見ると、応援したくなったり、これからどうなっていくのかが気になったりするのです。
その上で、何者でもない人の見え方がとても大事です。何者でもない人がいろいろなものを持ち合わせていたら、きっと成功者になるだろうと予測できてしまいます。それでは、見ていて面白くない。それに、自分よりも格上の人を見続けたいという感情になりづらいのが人間です。
テレビなどのメディアでは、すでに成功者となった方の過去を取り上げる企画はよくありますが、何者でもない人が成功するまでの過程をリアルタイムで追うのは難しいものです。密着するにはお金がかかりますし、何より本当に成功するかどうかわからない、つまり企画として成立するかどうかが不透明だからです。
SNSの強みは、お金をかけずに、何者でもない自分が成功するまでを一連の流れで動画投稿し続けられる点にあります。マスメディアにはできないことだからこそ、一般の方が見ていて面白いと思いますし、需要があるのです。
自分より強い立場の人たちというのは、うらやましがられるのと同時に、引きずり落とされやすい立場にあります。どちらかというと足を引っ張られてしまうのです。一方で、自分より立場が弱い人には「頑張って!」と応援したくなります。
また、人間は自分の行動に理由づけしたがる生き物なので、応援しやすい理由が明確なのはメリットが大きいといえます。僕の場合は、弱者のポジションとして、「廃業寸前の農家」「年収15万円」といった点を当てはめました。そして、じいちゃんの農業経営を立て直し、地域の農業を守り、儲かる農家になっていくことがゴールであるというストーリーに仕立てたのです。そこまでの過程をちゃんと発信し続けるだけで、面白い動画の発信が可能になります。
設定要素や投稿に応援したくなる要素があることも重要です。ちなみに僕自身は、自分の発信の見返りとして「応援してほしい」というよりも、「応援しやすい人物でありたい」と思っています。SNSやそれから派生する販売は、自分ひとりではなく、知ってくださった方々の応援や協力があってこそ成立するからです。