<10代では受験勉強時間の増加、子育て世代の女性ではフルタイム就業の増加が原因と考えられる>
人間の生活行動は、大きく第1次~第3次の3つに分かれる。第1次活動は生理的に必要なもので、睡眠・食事・身体のケアといったものが該当する。第2次活動は、仕事・通勤・学業・家事・育児・介護というような、義務的・拘束的性格の強いものを指す。
【グラフ】世代別、可処分所得の変化(1996年と2021年の比較)
これらを除いた第3次活動がいわゆる余暇時間で、自由に使える「可処分時間」と呼んでもいい。生活の質(quality of life)を評価するには、可処分所得のみならず可処分時間も見る必要がある。教員不足を解消しようと、教員給与が増額されることとなったが(教職調整額引き上げ)、現場の教員は「カネはいいから時間をくれ」と思っているものだ。
相次ぐ増税もあり、国民の自由に使えるお金は減っているが、時間のほうはどうか。15歳以上の1日の第3次活動平均時間は、1996年では372分だったが2021年では376分。四半世紀で微増だ。だが増えているのは男性で(381分→394分)、女性は減っている(363分→360分)。
年齢も掛け合わせると、国民のどの層で時間的ゆとりが減っているかが分かる。<図1>は、可処分時間の年齢カーブを男女別に描いたものだ。
<図1>
この25年間で可処分時間が減っているのは、10代と子育て期の女性であることが分かる。10代は、大学進学率の高まりにより、受験勉強に勤しむ生徒が増えているためだろう。早期受験の広がりの影響もあるかと思う。
現在、子どもの自殺は過去最多となっていて、動機で多いのは学業不振、親子関係の不和、親からのしつけ・叱責といったものだ。少なくなった子どもに過重な期待をかける教育虐待が問題になっているが、子どもの生活からゆとりを奪うことは、当人の生活態度を不安定にし、些細なきっかけで問題行動へと傾きやすくなることに注意しないといけない。
30~40代女性で自由時間が減っているのは、子育てをしながら(フルタイムで)働く母親が増えているためと思われる。可処分時間のカーブの谷が深くなっていて、子育て期の女性の疲弊がうかがえる。女性の社会進出が進む一方で、家庭内では旧態依然の性役割分業が残っているためだ。それが女性に結婚をためらわせ、未婚化・少子化が進行する一因となっている。
先ほどのグラフでは見づらいが、男女差が最も大きいのは高齢層だ。70歳以上の男性は553分、女性は468分(2021年)。1日の自由時間に85分もの差がある。高齢層では退職している人が多いので、このほとんどは家事時間の違いによると言っていい。<図2>から、高齢夫婦のいさかいの火種のようなものが見えてくる。
<図2>
配偶者がいる無業高齢者では可処分時間の性差が大きく、1日あたり3時間近くも違っている。配偶者と死別ないしは離別すると、男性の自由時間はマイナス30分、女性のそれはプラス75分。何と言ったらいいか、夫の妻への依存、妻の夫への献身のようなものが見て取れる。性役割分業は、20~30年もの長きにわたるリタイア生活を非常に窮屈なものにする(特に女性)。
可処分所得ならぬ可処分時間に着目すると、社会の歪み(ひずみ)が見えてくる。
<資料>
総務省『社会生活基本調査』
舞田敏彦(教育社会学者)