「若いうちの苦労は買ってでもしろ」は令和では死語なのか 養老孟司さんが「貧乏暮らしの効用」を語る


【写真を見る】養老孟司さんが「大臣でも務まる」と評した漫画家

 大抵の娯楽はヴァーチャルも含めれば国内で味わえる。外国語を学ばなくてもスマホが通訳してくれる。そんな時代に苦労してなお海外で暮らす必要なんかない。そのように考える若者が増えても不思議はない。

 『バカの壁』で知られる養老孟司さんは、それでもなお、若いうちのさまざまな体験や苦労をすることには「効用」がある、と説く。「若いうちの苦労は買ってでもしろ」なんて物言いは死語になって久しいが、養老さんの意見に耳を傾けてみよう(以下、養老孟司著『人生の壁』より抜粋・引用)

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貧乏は人を育てる

 知人の中では、漫画家のヤマザキマリさんがその代表でしょうか。大概のことに応用が利く力を持っているように感じます。ヤマザキさんは漫画を描いたり、文章を書いたりするのが仕事ですが、おそらく他のことを任せても何とかなるのではないかという印象を受けます。極端にいえば、大臣でも務まるのではないかと思います。スキルを超えた力を持っている。

 ただ外国に行けばいいというものではありません。英才教育の一環としてとか、語学留学でとか、そういうものはここでいう体験とは少し異なります。

 親がお膳立てしたレールに乗って行くのでは意味がありません。

 ごく簡単にいえば、身一つの生活をしたか、貧乏体験をしたか、というあたりが一つのポイントになるのではないでしょうか。

 ヤマザキさんがエッセイなどで綴っている体験談にはすさまじいものがあります。ある時、ホームレスが彼女の家のドアを叩いて、物乞いをしようとした。けれども出てきた彼女を見て、同業者だと思って黙って帰ったのだそうです。

 私の言っている体験とはこういう生活を送ることです。もちろん、無理をして貧乏暮らしをせよという意味ではありません。



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