トランプ関税による激しい対立から一転、米中両国は、相互に課している追加関税を115%引き下げることで合意した。経済大国同士が100%を超える関税をかけ合う異例の事態は、ひとまず緩和されたが、今回の交渉までに何があったのか。舞台裏を探りつつ、両国の内情を読み解く。同時並行で進む米国と各国の交渉から、日本が見出すべきものは?
【画像】【トランプ関税】米中“合意”の舞台裏 トランプ政権から相次いでいた疑問「なぜ中国は…」 習近平政権は“ある数値”を警戒
1)米中関税“合意”歩み寄りは本物か?「秘密裏に進められていた交渉」
トランプ関税発動で米国と中国はこれまで激しく対立してきた。先月7日、トランプ大統領が「中国が関税を撤回しないなら、我々は4月9日から50%の追加関税を課す」とSNSに投稿。これに対し中国政府は「アメリカの中国への『相互関税』は全く根拠のない典型的、一方的ないじめのやり方である。中国は最後まで付き合う」と猛反発。米国は中国からの輸入品に145%、中国は米国からの輸入品に125%の関税を課す、異例に事態に陥っていた。
ところが4月後半になるとトランプ氏の言動に変化が生じた。4月23日、「中国にかける関税は大幅に下がるがゼロにはならない」とし、中国への関税引き下げの可能性を示唆。さらに、雑誌『TIME』のインタビューで「習近平氏が電話をかけてきた。しかしそれが彼の弱さの表れだとは思わない」と、習近平国家主席側から電話でアプローチがあったと主張。これに対し、駐米中国大使館の報道官が「米国側は最近様々なルートを通じて中国側に働きかけ、関税などの関連問題で中国と協議したいという意向を積極的に伝えてきた」と主張した。
双方の主張の食い違いについて、アメリカで現地取材を行ってきた峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所)は、関係者の話を交えて以下のように分析をした。
今回のアメリカ出張の一番の目的は、米中双方の主張に矛盾があったので、その真相を探ることにあった。端的に言うと、米中双方ともどちらも正しく、どちらも嘘をついている。習近平氏が電話をかけてきたということについてはトランプ政権の幹部は全面否定した。ただ、ポイントはトランプ氏の4/23のコメント。どうもこの日の前後から米中の当局間同士の事務レベルの交渉が秘密裏に始まっていた。交渉をしたことを聞いたトランプ氏が話を膨らませて「習近平氏が電話をかけてきた」と語った可能性が高い。
中国側は早い段階からアメリカに秋波を送り協議を打診していたが、アメリカ側が断っていた。それが4/23前後からアメリカ側が少し応じるようになってきたというのが真相だ。事務レベルで交渉を重ねてきた上での今回の会談なので、何らかの成果が出る可能性が高いと見ている。
今回奇妙なことに、トランプ政権の幹部から同じ質問を必ず受けた。「なぜ中国はここまで強気なのか」と。アメリカ側としては、100%を越えるような追加関税をかければ中国側は直ぐ折れると思っていたらしい。「想定外の事態だ」と皆、口をそろえていた。もともと145%もかけるつもりはなかったが、“チキンレース”となって145%まで行ってしまった。
【放送後の動き】
米国と中国は5月12日、相互に課している追加関税を115%引き下げることで合意したと発表した。引き下げ幅のうち24%については、90日間停止し、さらに協議を続ける。