テニスのウィンブルドン選手権で、国際紛争に絡む観客の行動やパートナー企業への抗議デモが発生し、世界の情勢が大会に影響を与えている。会場内では観客による叫び声が選手との間にトラブルを引き起こし、会場外では大会の公式パートナー企業に対する抗議デモが発生するなど、世界の政治・社会情勢がテニスの祭典にも影を落としている。
試合中に観客がウクライナ侵攻巡り叫ぶ
開幕日である6月30日、女子シングルス1回戦での出来事だ。ユリア・プチンツェワ選手(世界ランキング33位、カザフスタン)は、ウクライナ侵攻に関してロシア語で叫んだ観客の退場を主審に要求した。「彼を退場させてください。彼が出て行かないとプレーを続けられません。もしかしたら彼はナイフを持っていて、後で襲ってくるかもしれません」と彼女は述べた。
米スポーツメディア「ジ・アスレチック」などによると、男性はプチンツェワ選手がサーブを打つ合間に、ロシアのウクライナ侵攻に関してロシア語で何かを叫んだという。内容は不明だが、ロシア出身であるプチンツェワ選手に向けられた攻撃的な言葉だった可能性がある。プチンツェワ選手は、政治的な発言は試合中に聞きたくないと述べた。
大会主催者は翌日、「セキュリティー担当者が対処した」と説明。英BBC放送は、観客は自発的に観客席を去ったと報じている。
パートナー企業バークレイズへの抗議デモ
同じ6月30日、ウィンブルドン会場のすぐ脇では、大会の公式パートナーを務める英金融大手バークレイズに対する抗議デモが行われた。市民団体などは、バークレイズがイスラエルに兵器を供給する複数の防衛関連企業の株式を20億ポンド(約4000億円)以上保有していると指摘している。
ウィンブルドン会場近くで行われた、バークレイズへの抗議デモ。パレスチナ・ガザ地区での車両が再現されている。
デモには数十人が参加し、「パレスチナに対するイスラエルの犯罪への資金提供をやめろ」と書かれたプラカードなどを掲げた。参加者たちは「ジェノサイド(大量虐殺)で告発する」とシュプレヒコールを上げ、バークレイズの関与を強く非難した。
昨年も同様のデモがあり、バークレイズはイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まった2023年10月以降、支店に赤い塗料をかけられるなど、抗議活動の頻繁な標的となってきた背景がある。
バークレイズ側はウェブサイト上で、こうした批判に対し「顧客の指示や要望に応じて株式の売買を行っている」「私たちはそうした(防衛)企業に金融サービスを提供しているが、『株主』や『投資家』ではない」と説明し、直接的な投資や関与を否定する姿勢を示している。
ウィンブルドンでのこれらの出来事は、スポーツ界の最高峰の一つであるウィンブルドン選手権でさえ、世界の複雑な政治・社会情勢から無縁ではいられない現実を示している。観客の行動や企業への抗議活動は、国際的な注目が集まる場所で自らの主張を訴えたいという動きの現れであり、今後の大規模スポーツイベントにおける同様の事態発生も示唆している。