長野県の山あいにある生坂(いくさか)村。その中心部から外れたのどかな集落が物々しい雰囲気に包まれたのは5月12日のことだった。古い2階建ての一軒家に警視庁の家宅捜索が入ったのだ。
家主は、7日午後7時前に東京メトロ南北線の東大前駅ホームで男性を切りつけ、殺人未遂で現行犯逮捕された戸田佳孝容疑者(43)である。
「家宅捜索ではスマホやタブレット端末、キャッシュカード、卒業アルバムなど段ボール5箱分が押収されました」
と、社会部デスクが言う。
「警視庁は押収品を解析し、犯行動機や計画性について調べています。逮捕直後の戸田は机に突っ伏したまま何も語らず、黙秘とも言いませんでした。ですが翌8日の午後になって犯行を認め、動機も語り出したのです」
教育虐待が原因と主張
戸田容疑者の主張は、あまりに斬新奇抜だった。
「子どもの心身が耐えられる限度を超えて教育を強制する教育虐待が原因と供述しています。“教育熱心な親のせいで不登校になり苦労した”“東大を目指す教育熱心な親たちに、度が過ぎると子どもがグレて、私のように罪を犯すと示したかった”との内容です」
犯行現場を選んだのは、
「“駅名に東大とついているので世間の人たちが教育虐待を連想しやすいと思った”と説明している。世間がそう連想するかどうかはともかく、理解しがたい話です。7日早朝に長野から電車で上京した戸田は、東大の食堂で食事を取り赤門や三四郎池を見て回っていました。1時間半近く観光し、犯行に及んでいる。その行動も腑に落ちません」
常に一人で行動
いずれにせよ、と捜査関係者。
「戸田は自らの行為を自分勝手に正当化しているに過ぎない。取調べに“経済的に困窮していた”と話しており、単に、自暴自棄になって事件を起こした可能性もあるとみています」
そして、こう続ける。
「彼が東京の中野区で暮らしていた3年前、生坂村の“空き家バンク”経由でいまの家を約100万円で購入し、移り住みました。が、中野でも生坂村でも、実際は無職なのにIT技術者を自称して定期的な収入があるよう装っていた。これには、愛知の名古屋市で裕福な家庭に生まれ育った影響もあると思われます」
どういうことか。戸田家を知る人物が口を開いた。
「親の教育への入れ込み具合や、戸田がどこでゆがんだかは分かりませんが、小学生の頃から変わった子どもだったのは事実です。勉強ができなかったわけではなく、人付き合いが下手で、常に一人で行動していた印象がある。なのに突然、同じクラスの子に唾をかけたり、人が嫌がることをしていたと聞きました」
中学に入ると、完全に孤立した。
「喋らないわけじゃないけど友だちはいなかった。なぜか一人で空手だか太極拳だかのポーズを取ったりするので不思議がられていた一方、成績は悪くなかった。かと思うと何日か続けて休んで、また出てくる。今回の事件の報道で、それが不登校だったのかと気付きました」