佐賀県の「日本三大美肌の湯」として知られる嬉野温泉。2025年初頭、「源泉枯渇」の報道が広まり、多くの誤解を招きました。しかし、実際には温泉資源は着実に回復しており、地元「湯守り人」たちの献身的な努力によってその恵みが守られています。本稿では、一時的な水位低下の背景と、名湯を守り続ける彼らの取り組みを詳述します。
「温泉資源の危機」報道の背景
2025年の年明け、「観光客増加による源泉の水位低下」といったニュースがテレビや新聞を駆け巡り、「人気の温泉地・嬉野がいま、危機に瀕している」との印象が広く伝わりました。これにより、「嬉野にはもう湯がない」という誤解が生まれることになりました。
嬉野温泉公衆浴場シーボルトの湯と、温泉を守る「湯守り人」の取り組み
旅館経営者が語る回復の現状と「湯守り人」の努力
しかし、この報道は必ずしも現状を正確に反映したものではありませんでした。嬉野温泉で最も歴史の長い「旅館大村屋」の代表であり、嬉野温泉観光協会の会長も務める北川健太氏は、「ニュースだけを見て、『嬉野にはもう湯がない』と思っている方がいます。ただ、実際には、前年より5メートル以上水位が回復しているんです」と語ります。
嬉野の湯は、地域全体で静かに、そして淡々と守られてきました。ホテルや旅館の経営者たちは月に一度、自ら「源泉所有者会議」を開き、源泉の水位と揚湯量を共有しています。この連携を通じて、「湯を守る」という共通の使命を果たし、名湯を未来へとつないでいるのです。
新規参入と温泉資源保護の課題：すれ違いの真相
今回の一時的な水位低下は、決して「温泉資源の限界」を示唆するものではありませんでした。その主な原因は、「温泉法」だけでは完全には守れない温泉資源の自治の仕組みと、新規参入の事業者との間に生じた小さなすれ違いによるものです。
嬉野温泉では、温泉事業者の長年の経験と知見に基づき、「どれだけ汲み上げれば地層に負担をかけないか」という感覚が共有されていました。しかし、新たに進出した宿泊施設に、この背景が十分に伝えられないまま運用が始まり、設計段階で想定されたポンプの出力が他の施設よりも大きかったため、一時的に源泉の水位が下がったのです。北川氏は、この状況を冷静に説明しています。
「湯がない」という誤解とは裏腹に、嬉野温泉は「湯守り人」たちのたゆまぬ努力と協力により、その源泉の回復を見せています。温泉資源は自然の恵みであると同時に、人々の持続的な管理と地域コミュニティの連携によって守られるべき貴重な財産です。嬉野温泉は、その模範となるような取り組みを続けており、これからも日本が誇る「美肌の湯」として輝き続けることでしょう。
