今、もっとも旬で、ブレイク俳優の筆頭的存在感なのが、野村康太である。2025年5月2日から初主演映画『6人ぼっち』が公開中だ。
毎週金曜日深夜から放送されている『ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~』(テレビ東京系)では、松下由樹の相手役を演じている。新人俳優役という設定が、演じる本人と自然と重なる。
その意味で本作は、まるで野村康太の演技を見守るドキュメンタリー的ドラマみたいである。男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。
清らかな感覚にさせてくれる声
映画やCMのクラシック音楽監修を担当する立場からすると、何かそれっぽい雰囲気がでる(気がする)からといって、クラシック音楽を安易に使用するのはおすすめしない。
何せクラシック音楽はその名のように古典的。歴史の重みや厚みの鎧を着ている。その重厚さが、ときに現代の映像作品の画面自体を破壊しかねないからである。その意味で、松下由樹が狂愛のマネージャーを怪演する主演ドラマ『ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~』(以下、『ディアマイベイビー』)の楽曲使用法はどんなものかと検証してみる。
第1話冒頭、人々が見上げるビルの大型ビジョンに傷害事件のニュース映像が流れる。この場面の挿入曲として使用されているのが、シューベルトが1825年に作曲した『アヴェ・マリア』(『エレンの歌』)。心の奥から浄化されるような主旋律をあえて血みどろ事件とからませるという演出。
手垢がついたような使用例だが、ドラマの中で事件を起こした犯人とおぼしき男性の声が、その後の場面で実に清らかな感覚にさせてくれる。
シンプルな声の響きにうっとり
視聴者の感覚を研ぎ澄ませるかのような声の持ち主と主人公・吉川恵子(松下由樹)が出合う場面が描かれる。担当したアーティストをスターに押し上げる敏腕マネージャーである吉川が、安達祐実演じる担当アーティストに裏切られたのが発端。
街路をひとりとぼとぼ歩いていると、向こうから歩いてきたひとりの男性に目が釘付けになる。その男性・森山拓人(野村康太)が通り過ぎるのを身体をのけぞらせてまで歓喜の眼差しで追う吉川は、その場で転んでしまう。
するとそこへ足音が近づく。吉川が視線をあげると、さっきなめ回すように見た拓人がいる。「大丈夫ですか?」。拓人が声をかける。心ときめく吉川の心の春(?)を表現する童謡『春が来た』が囃し立てる。拓人はもう一度「大丈夫ですか?」と発するのだが、冒頭のクラシック音楽演出から翻って、このシンプルな声の響きにぼくら視聴者もうっとり。