日本の若者にも人気がある中国発の電子商取引(EC)サイト「SHEIN(シーイン)」が、トランプ米政権の関税措置で打撃を受けている。中国南部に位置する広東省広州市には「シーイン村」と呼ばれる一帯があり、シーイン向けの服飾工場が密集している。米国が対中関税の攻勢を強めるのに伴い、受注が明らかに減少して苦境に立たされる工場も出現。米国との貿易戦争は「私たちのような底辺にいる労働者を苦しめ、さらに貧しくする」。失業の危機に直面する出稼ぎ労働者らは肩を落とす。(共同通信中国総局=杉田正史)
▽過酷労働でも「仕事があるだけまし」
中国広東省広州市の番禺(ばんぐう)区。服飾関連の中小・零細工場が集まるこのエリアはシーイン向けの商品を専門に請け負う工場が500以上も軒を連ねるなど「シーイン村」として知られる。
記者は3月下旬、現地を訪問した。午前8時から約1時間、始業時間に合わせて人の波が工場に吸い込まれていく。狭い路地には生地が入った袋が山のように積まれ、裁断機やミシンの機械音が響き渡る。
「今年に入ってから受注が減ったわ」。15年近く縫製職人として働く女性(50)は、首元に「SHEIN」のタグが付いた作りかけのシャツをあごでしゃくりながら嘆いた。
シーインは低価格や流行のデザインを武器に、欧米や日本でも人気を集め、ファストファッション市場を席巻している。
だが今年1月にトランプ米大統領が就任して以降、次々に対中追加関税を打ち出した影響で、この女性が働く工場は生産量を減らしているという。
勤務時間は午前9時から午後11時までで、休日は月に1日のみ。月給は5千元(約9万6千円)と過酷な労働条件だ。だが「出稼ぎで番禺に来ている私にとって、工場がつぶれていないだけましよ」と話す。
中国は長引く不動産不況で経済が落ち込み、雇用情勢は厳しい。「職場環境に不満はあるけど、今は無職になるよりはいい。同情するぐらいなら日本がたくさん買ってちょうだい」と語り、再びミシンに向かった。
▽シーイン村のにぎわい終わり
シーインは現在、本社をシンガポールに置くが、広州市番禺区には創業地の江蘇省南京から移転した拠点オフィスがある。シーインは毎週、2万以上の新商品を発売しているとされ、お膝元の広州市番禺区に集まった工場は激しく変化する流行に対して、「多品種」と「少量生産」で対応してきた。
小さな縫製工場を営む男性(45)はシーインの要求に対応可能な設備を購入する資金がなく、手縫いで単価の高い受注に特化している。