「多様性が企業の業績を上げると言うのは、もうやめよう」─フランスで話題の書「多様性と業績は無関係」の著者が言いたかったこと


【画像】オリヴィエ・シボニー「多様性が企業の業績を上げると言うのは、もうやめよう」

『多様性は、あなたが思っているものとは違う』(未邦訳)は、3月にフランスで刊行された、HEC経営大学院のオリヴィエ・シボニー教授の著書だ。この本では、複数の研究を根拠に、多様性が企業の業績を上げるという説が実証的な検証に耐えないことが示されている。

民族の多様性にも、ジェンダーの多様性にも、文化の多様性にも、経済上のメリットは見当たらないというのだ。それにもかかわらず、国際機関やマッキンゼーのようなコンサルタント企業の報告書を見ると、多様性には経済上のメリットもあるといった記述が散見される。シボニーは言う。

「多様性が業績の向上をもたらすという因果関係は、企業全体というマクロのレベルでも、チームというミクロのレベルでも、これまでの研究で実証されたことはないのです」

企業が多様性推進のために改善すべきことは多くあるが、管理職に多様性研修を受けさせる必要はないという。「効果はほとんどありませんし、かえって逆効果になるおそれもあります」

むしろ見直すべきは、経営者や管理職に対して私たちが抱くステレオタイプなのだという。なぜなら、その種のステレオタイプこそ、男性優遇の温床となっているからだ。オリヴィエ・シボニーに仏誌が話を聞いた。

それは「企業の世界に特有の現象」

多様性は流行りのテーマであり、多くの企業が関心を寄せています。そのこと自体は、当然の話です。フランスでは、企業の3分の2が多様性に予算を割いています。でも、各企業の上層部を見ると、多様性が目立つようになっているわけではありません。なぜなのでしょうか。

この問題に関して言うと、「診断を間違ったから、問題解決の戦略も間違ってしまったのだ」と私は考えています。世のなかには、「女性や民族マイノリティに対する偏見や差別がなくならないのは認知バイアスのせいであり、その認知バイアスこそ、多様性が失われる原因なのだから、この認知バイアスをどうにかしなければならない」と言う人がいます。

私は、このやり方では、うまくいかないと考えています。

──CAC40指数(フランスの代表的な株価指数)を構成するフランスの有力企業40社を見ても、ここ数年、トップが女性の企業はわずかです。

ご指摘のとおりです。ジェンダー多様性だけが、大事な多様性だというわけではありませんが、フランスには(幹部職員や取締役会における女性の割合を一定以上にしなければならない)リクサン法がありますので、企業はジェンダー多様性に関して結果を出さなければならないことになっています。

フランスの企業では、入社時は男女比がほぼ半々ですが、最初の管理職のポストに就く時点から、男女比が崩れはじめます。SBF120指数を構成するフランスの有力企業120社の取締役会では、女性は27%しか残っていません。つまり、目標達成には、まだほど遠いのです。ジェンダーの多様性でもこの状況ですから、それ以外の多様性も企業内で欠けていることが想定できます。

これはフランス社会特有の問題と思われがちですが、そうではありません。米国の大手格付け会社スタンダード&プアーズによると、フランスは女性CEOの割合で世界7位です。要するに、トップに多様性がないのは、企業の世界に特有の現象なのです。

実際、フランスでは、大臣の男女比がほぼ半々でない状態は、もはや想像できなくなっています。司法官の世界でも、控訴院の裁判官は女性が66%です。大学では、自然科学の分野も含めて、すべての学部で女子学生のほうが多くなっておりますし、同じことは大学教授についてもいえます。

もし企業のトップに女性が少ないのが、社会全体が女性に対して抱くステレオタイプのせいであるならば、いま挙げた権威と権力が伴う地位で女性の割合が多いことを説明できません。企業の上層部で女性が少ないのは、企業の世界に固有の問題なのです。だから、問題の解決策も、仕事の世界に合わせて編み出していかなければなりません。



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