「転売ヤー」は許せない―。始まりはそんな小さな正義感だった。フリマアプリ大手「メルカリ」への出品商品を巡り、利用者の女性が出品者に高額転売をやめさせようと書き込んだアプリ上のコメントは次第に過激化し、訴訟トラブルに発展した。女性側はあくまで「適正な販売価格を実現するため」だと正当性を訴えたが、裁判所は女性の行為を断罪した。正義感の末の暴走はなぜ起こったか。
■火がついた使命感
山梨県の女性は令和3年6月、インターネットサイトで購入したピアスをメルカリに出品した。サイトの自動検索機能によって、別のアカウントが同じピアスを販売していることを知った。販売価格は自分より数千円も高く、「高額転売ではないか」。こう疑念を抱いた。
ピアスの製造元に確認するなどして出品者の入手ルートを探り、別のフリマサイトからの転売だと確信した女性。メルカリ上でジュエリーなどの販売業を営み、転売していること自体は自分と同じだが、高額な価格設定で荒稼ぎしようとする姿勢が許せず、静かに〝攻撃〟を始めた。
女性は出品者の商品写真と説明文を流用した上でより安い価格をつけた商品を出品。購入希望者のアプリ画面に出品者のものと女性のものの2つが並んで表示され、比較されるよう仕向けることで、出品者に価格を下げさせようと試みたのだ。
その後、女性の行為に気づいた出品者から「規約違反」を指摘するコメントが書き込まれると、使命感に火が付いた。
■次々と攻撃へ
《ジュエリーを購入価格の数倍で販売する高額転売ヤーです》
女性は自身のアプリ上のニックネームを、出品者のニックネームの後ろに「悪質転売撲滅」などと加えたものに変更すると、転売する人を意味する「転売ヤー」という言葉を使ったコメントを、出品者からの購入歴がある人のページに次々と残していった。
さらに、自身のプロフィルページにも、出品者の高額転売について注意喚起し、詐欺として警察に届け出るよう促す文言を掲載。それだけにとどまらず、気づかれないよう別アカウントで出品者から商品を購入して出品者の氏名や住所を入手し、それらを一部伏せ字にした上で公開した。
女性のアカウントが停止されたことで投稿は数日間にとどまったが、出品者はアカウント情報の開示請求で女性を特定し、女性に約460万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。