河合優実の勢いがとまらない。
ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBSテレビ系)の不良娘役も記憶に新しいが、今年3月には日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。現在放送中の朝ドラ『あんぱん』での演技も絶賛されている。そんな河合について、SNSなどでは「山口百恵に似ている」と言う人も少なくない。
【画像】河合優実の主演の映画『ナミビアの砂漠』で強烈な印象を残したシーン
その理由について考えてみたい。
■「そこにいま本当にいる」と思わせる河合優実
『あんぱん』で河合優実が絶賛されたのはこんなシーンだった。
河合が演じる朝田蘭子の実家は石材店。そこで住み込みで働く原豪にひそかに思いを寄せている。そしてある日、豪に召集令状が届く。最初は何も言わずそのまま見送ろうとしていた蘭子だったが、出征するぎりぎりのところで告白し、2人は思いを確かめ合う。
豪役の細田佳央太の好演もあってのことだが、確かにこの場面の河合優実の演技にはぐっと惹きつけられるものがあった。
長年ずっと胸に秘めてきた思いを告白する緊張、だがその思いを相手が出征するいま言わずにはおれない気持ち、そして豪の無事の帰還を願う切実な気持ちなど内心に渦巻く感情が、セリフの言い回し、目線の揺れ、細かな表情の動き、ちょっとした仕草などを通じて完璧に表現されていた。
しかし何よりも河合優実のすごさを感じさせたのは、朝田蘭子という人物の演技を超えた実在感である。そこには、蘭子という人間が「そこにいま本当にいる」と確信させてくれるような、有無を言わせぬ説得力があった。
もちろんフィクションなのだが、かつて戦時中、至るところに蘭子と同じ境遇の人たちが確かにいたに違いないと思わされた。
日本アカデミー賞最優秀主演女優賞の対象作品となった映画『あんのこと』(2024年公開)は、戦時中ではなく、まさにいまの日本社会の話だ。だがこの映画でも、河合優実は同じ魅力を見せてくれる。
河合が演じる香川杏は、貧しい母子家庭で育った。母親に強制されて生活費を稼ぐために小さい頃から売春をさせられ、そのあげくに覚醒剤使用で捕まってしまう。
それでも杏は、親身になってくれる刑事(佐藤二朗)やジャーナリスト(稲垣吾郎)と出会い、介護施設で働き、学校にも通うなど少しずつ自立の道を歩み始める。しかしその矢先コロナ禍に。働くことも学校に通うこともできず、拠り所となってくれた人たちとも離れ、再び孤立するようになる……。