(柳原 三佳・ノンフィクション作家)
「娘の有里紗は、その年の4月に、目標だった栄養士としての仕事をスタートさせ、毎日生き生きとしていました。亡くなる8日前には21歳の誕生日を迎えたばかりで、まさにこれから、というときでした。それなのになぜ、この場所で突然命を奪われなければならなかったのか、私たちは今もこの現実を受け入れることができません……」
【写真】ラーメン好きの伸一さんにいつも同行し、一緒に食べ歩きを楽しんでいたという有里紗さん。お父さんと大の仲良しだった
星伸一さん(57)、ひろみさん(58)夫妻は、茨城県常総市の国道294号線山田北交差点の脇に佇み、事故現場の交差点を見つめます。
■ 手つかずのままになったバースデーケーキ
事故は今から2年前、2023年5月19日午後4時55分に発生しました。この日は、アスファルトに水たまりができるほどの土砂降りでした。
「ちょうど、あの矢印のペイントのあたりでした。下妻方面に走行中の大型トレーラーが、センターラインオーバーをして対向車に衝突し、その衝撃で進行方向とは逆に180度向きを変えて左側に横転。積み荷のコンテナがたまたまそこを走っていた娘の軽乗用車を押しつぶしたのです。
警察から連絡を受けてすぐに病院に駆け付けたのですが、私たち家族が到着したとき、有里紗はすでに冷たくなっていました」
以下の写真は、有里紗さんが運転していた車です。
その瞬間、いったいどれほどの衝撃を受けたのでしょうか。原形をとどめないほど大きく破損した車体を見ると、大型車両の破壊力の大きさを改めて痛感させられます。
自車線を直進していただけの有里紗さんには何の落ち度もない、そして、避けようにも避けられない、一瞬の悲劇でした。
伸一さんは語ります。
「事故の前日は妻の誕生日だったので、ケーキを買っていたのですが、たまたま有里紗は用があったので、19日の夜に一緒に食べようと思っていました。それなのに、有里紗は家にたどり着くことができなかったのです……」
■ 危険な「ジャックナイフ現象」を起こした大型トレーラー
以下は、本件事故を報じる『読売新聞』(2023年5月21日)の記事です。
●3衝突 2人死傷=茨城
19日午後4時55分頃、常総市水海道山田町の国道294号で、対向車線にはみ出した大型トレーラーが、前から来た乗用車と軽乗用車に次々と衝突し、横転した。この事故で、軽乗用車を運転していた同市豊岡町乙、栄養士星有里紗さん(21)が搬送先の病院で死亡。乗用車のつくばみらい市の男性会社員(61)もすねの骨を折るなどの重傷を負った。
常総署は、大型トレーラーを運転していた小美玉市川戸のトラック運転手、田名見良太容疑者(34)を自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)容疑で現行犯逮捕。容疑を過失運転致死傷に切り替えて調べている。
発生から約4カ月後、警察はトレーラーを運転していた男を自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)容疑などで書類送検しました。また、トレーラーの管理者で運送会社役員の男(59)も、適切な整備を怠ったなどとして、業務上過失致死傷などの容疑で書類送検されています。
それにしても、これだけ大きな車体の大型トレーラーが、いったいどうやって進行方向を180度変え、横転したのでしょうか。
その理由は、トレーラーという車両の独特の構造にあります。