北朝鮮が新しく建造した5000トン級(崔賢級)駆逐艦を進水する過程で「重大な事故」が発生したと明らかにした。今年の労働党創建80周年(10月10日)、来年初めの第9回労働党大会など重要政治イベントを控えて成果を急ぐ金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の焦りが事故につながったという分析だ。
労働新聞は22日、「新しく建造した5000トン級駆逐艦の進水式が5月21日、清津(チョンジン)造船所で進行された」とし、駆逐艦の進水過程で「厳重な事故」が発生したと報じた。
同紙は「進水の過程で未熟な指揮と操作の不注意により台車の移動が滑らかに進行しなかった」とし「艦尾部分の進水ソリが先に離脱して船底が一部損傷し、艦の均衡が崩れ、艦首の部分が船台から離脱できない事故が発生した」と説明した。
北朝鮮の報道内容によると、建造された駆逐艦を台車に載せ、傾斜路に沿って横向き進水方式で海に浮かべる計画だったが、船首と船尾に設置された台車が同時に動かず事故が発生したと考えられる。船首と船尾が同時に移動せず均衡が崩れ、正常に進水できず横に倒れたということだ。
韓国軍合同参謀本部の李誠俊(イ・ソンジュン)公報室長はこの日、国防部の定例ブリーフィングで「韓米情報当局は北の清津港の大型艦艇進水動向を事前に追跡監視していた。側面進水が失敗したと評価する」とし「(新しい駆逐艦は)大きさや規模などから『崔賢』と似た装備とみていて、現在は海上で倒れている」と伝えた。
この日の進水式に出席した金正恩委員長は「これはただ不注意と無責任、非科学的な経験主義によって生じた、到底許されない深刻な重大事故であり犯罪的行為」と叱責した。事故の原因を不注意などに特定したのは、新しい駆逐艦自体には問題はないが進水式で技術的な問題が発生したという点を強調するためとみられる。また、今回の事故が「わが国の尊厳と自尊心を一瞬にして落とした」とし「駆逐艦を至急原状復元することは単なる実務的問題でなく、国家の権威と直結する政治的問題であるため、党中央委員会の6月の全員会議までに無条件に完結しなければいけない」と指示した。
韓国統一部の当局者はこの日、記者らに対し「船舶が機能しないほどの大規模な破損ではないと推定される」と説明した。金正恩委員長が6月に開く労働党全員会議までに緊急復元するべきと指示したのは、それまでに整備が可能と判断したと考えられるからだ。北朝鮮はこの日、労働新聞を通じて今年上半期に事業を決算し、下半期の事業を議論するために6月末に労働党中央委員会全員会議を召集すると明らかにした。
専門家の間では、今回の事故が先代指導者の金日成(キム・イルソン)主席や金正日(キム・ジョンウン)総書記と同等または上回るために差別化した成果が必要な金正恩委員長の焦りに起因するという指摘が出ている。
特に今年は2021年の第8回党大会で提示した「経済・国防力発展5カ年計画」の最後の年だ。さらに成果を出している国防分野でも自身の期待に及ばないとして成果を促し、速度を強調するあまり事故につながった可能性が高いということだ。進展した武器体系を搭載した駆逐艦に執着するのは、ロシア・ウクライナ戦争の終戦を念頭に置いてロシア側に派兵に対する見返りを促す意図もあるとみられる。
金正恩委員長の速度への執着による事故は今回が初めてではない。執権初期の2015年5月に建設を急ぐと、平壌(ピョンヤン)平川(ピョンチョン)区域の23階建て新築アパートが崩壊し、数百人が死傷した。当時も金正恩委員長は先代指導者の「千里馬速度」を上回る「万里馬速度」をスローガンとし、これによる欠陥工事が事故の原因という分析があった。
北朝鮮が事故の事実を異例にもすぐに公開した背景には、米国をはじめとする国際社会が衛星写真を通じて新しい駆逐艦の進水過程を追跡してきただけに隠蔽は不可能と判断した可能性が高い。外部から情報が流入するより先に事実を伝えて迅速に復元を推進するのが住民に及ぼす影響も少ないと判断したとみられる。
内部的に責任の所在を明確にし、関連機関と人員に警戒心を抱かせる狙いがあるという分析も出ている。慶南大のイム・ウルチュル極東問題研究所教授は「全員会議でこの問題を扱うと警告した点は、事故の深刻性を強調して組織内の緊張感を形成しようという戦略」とし「国防力強化に対する強い意志とともに、失敗を容認しないというメッセージを対内外に伝えようという意図とみられる」と話した。
一方、北朝鮮はこの日午前、数発の巡航ミサイルを東海(トンヘ、日本名・日本海)上に発射した。北朝鮮がミサイルを発射したのは8日の短距離弾道ミサイル以来14日ぶりで、軍内外では進水式失敗で落ち着かない雰囲気を刷新する意味で発射した可能性があるという見方が出ている。軍関係者は「今日午前に数発を発射し、韓米情報当局が諸元を分析中」と話した。