2014年に失脚した、親ロシア派の元ウクライナ大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ氏の側近だったアンドリー・ポルトノフ元大統領府副長官(51)が21日、スペイン・マドリード郊外のアメリカンスクールの外で射殺された。スペイン当局が明らかにした。
ポルトノフ氏は、マドリード郊外ポスエロ・デ・アラルコンにあるアメリカンスクールに子供たちを送り届けた後、学校の駐車場に停めた自分の車へ歩いて戻る際に銃撃された。
目撃者の話によると、少なくとも1人の正体不明の襲撃犯が、ポルトノフ氏に向けて数回発砲し、近くの公園の木々が生い茂ったエリアに逃げ込んだという。
ポルトノフ氏は、民主化を求める国民の数カ月におよぶ反政府デモの末に2014年に失脚したヤヌコヴィッチ政権で、国会議員と大統領府副長官を務めた。
かつては、ユリア・ティモシェンコ氏率いる政党所属の国会議員だった。2010年大統領選でティモシェンコ氏が敗れ、ヤヌコヴィッチ氏が当選すると、ヤヌコヴィッチ陣営にくら替えした。
ヤヌコヴィッチ政権が失脚した2014年のマイダン革命後はウクライナを離れていたが、2019年にウォロディミル・ゼレンスキー氏が大統領に選出されると帰国した。
その後、再びウクライナを離れ、2021年には米財務省の制裁対象となった。同省はポルトノフ氏について、司法を支配し、改革の取り組みを損なわせる手段を講じてきた「法廷フィクサーとして広く知られた」人物だとしている。
■何があったのか
事件は21日午前9時15分ごろ、登校時間中に起きたと報じられている。銃撃の背後に誰がいるのかは明らかになっていない。
目撃者の証言では、5〜6回の発砲があったとみられる。生徒の1人はスペインのテレビ局に対し、「爆竹か花火」だと思ったと語った。現地紙エル・ムンドは、ポルトノフ氏に駆け寄った女性が悲鳴を上げたと伝えた。
警察は複数のドローン(無人機)とヘリコプター1機で周辺を捜索した。複数の目撃者によると、銃撃犯は青色のトレーニングウェアを着た、細身の男だったという。
ほかに、バイクに乗った共犯者が少なくとも1人いた可能性があると、スペインメディアは報じている。
2018年には、今回の銃撃現場から数キロメートル離れた場所にあるブリティッシュ・カウンシル(英国文化振興会)の学校の外で、コロンビア人の麻薬密売人が射殺される事件があった。
今回の犯行の動機はわかっていない。現場で対応した救急隊は、ポルトノフ氏の背中と頭部に複数の銃創を確認したとしている。
ポルトノフ氏が所有する黒色のメルセデス・ベンツ車の周囲は封鎖された。学校は、校内にいた生徒全員の無事を確認したと保護者に通知した。
ポルトノフ氏の遺体はその後、検視のために運び出された。
ポルトノフ氏はここ数年、ウクライナ国内外の訴訟で勝訴していた。
2014年に欧州連合(EU)がポルトノフ氏を制裁リストに加えると、同氏は裁判所に異議を申し立てた。2015年に裁判所が訴えを認め、制裁は解除された。
2018年にはウクライナ保安庁(SBU)が、ロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合したことに関連し、ポルトノフ氏を国家反逆罪で刑事訴追した。しかし翌年、捜査当局は証拠不十分だとして捜査を終了したとされる。
ウクライナの情報機関は過去に、ロシアや、ウクライナ国内のロシア占領地域で起きたいくつかの殺人事件に関係していたことがある。
一方で、昨年2月にスペイン・アリカンテ近郊で、ロシアからの亡命者が殺害された事件には、ロシアの殺し屋が関与していた。
射殺されたロシア人のヘリコプター操縦士マキシム・クズミノフ氏は、事件の数カ月前にウクライナに亡命。ウクライナ当局によると、クズミノフ氏に保護を申し出たものの、同氏は身元を偽ってスペイン南東沿岸に移動したとみられるという。
(英語記事 Ukrainian ex-top official shot dead outside Madrid school)
(c) BBC News