【ワシントン=淵上隆悠、ヨハネスブルク=笹子美奈子】米国のトランプ大統領と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が21日、ホワイトハウスで会談した。南アで白人が迫害されていると根拠の乏しい持論を振りかざすトランプ氏に対し、両国の関係悪化に歯止めをかけたいラマポーザ氏は冷静に反論を続けた。
約1時間にわたり公開された会談の冒頭で、トランプ氏は「南アの白人は土地を没収され、殺されている」などと繰り返した。南アの急進左派政党の支持者たちが「ボーア人(オランダ系南ア人)を殺せ、農民を殺せ」と歌う様子を収めた動画をテレビで流し、白人が被害に遭った事件を伝える記事の束を「みんな死んだ」と吐き捨てながらラマポーザ氏に手渡した。
トランプ氏が南アで起きていると主張する白人の迫害は、裏付けがない。南アの警察当局の統計によると、昨年4月~12月に殺害された1万9696人のうち農場関係者は36人で、黒人も含まれる。会談でラマポーザ氏は、治安に課題があると認めつつ、「犯罪で命を落としている人の多くは黒人だ」と反論した。
トランプ氏は第1次政権の頃から、南アで白人の農民が差別を受けていると主張した。米紙ニューヨーク・タイムズは、南ア出身のプロゴルファーの影響を受けたとの見方を伝えている。第2次政権で先鋭化した主張は政策に反映され、トランプ氏は2月、南アへの援助停止や白人の米国移住を促進する大統領令に署名。関係が近い南ア出身の実業家イーロン・マスク氏が南ア政府を繰り返し批判し、両国関係の悪化に拍車をかけた。
トランプ政権は今月12日、南アから到着した白人を難民として受け入れたが、新たな難民の受け入れを停止している中、例外的な対応だとして物議を醸している。政権は、南アが議長国を務める主要20か国・地域(G20)の関連会合もボイコットしている。
会談で不当な扱いを受けたラマポーザ氏は、戸惑いながらも笑顔を絶やさず、反論する際も声を荒らげなかった。「米国に比べ我々の経済規模はちっぽけだ」と謙遜し、コロナ禍での米国の支援を巡り「あなたと米国民に『ありがとう』と言いたい」と語った。今回の会談を経て、南アで11月に開かれるG20首脳会議にトランプ氏が出席するかどうかが焦点となる。