身内がストーカー行為をしていると知ったら止めに入るのが普通だろう。が、時には加害者側に加担してしまうこともある。周囲が止めに入らないことが時には最悪の結果を招く。いわゆる川崎ストーカー事件もその一つかもしれない。
500人以上のストーカーに向き合ってきたカウンセラー、小早川明子氏の著書『「ストーカー」は何を考えているか』では、子どものストーキングに親も加担、というケースを紹介している(全3回記事の3回目。以下、同書をもとに再構成しました)
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ケース1:学内DVで望まぬ妊娠
若年層のストーキングも増えています。
高校や大学でのストーキングの場合、たいていデートDVが先行しますが、とりわけ深刻な学内DVとして思い出される事案があります。
在学中から学校内で関係を持たされていた女子学生は、卒業前に相手の男子学生の子供を妊娠しました。8ヶ月の時に相談に訪れましたが、付き添ってきた母親が不思議なほどに怒りを表現しません。
「娘が『怖い』というので、相手にも文句が言えず──」とただおろおろしている。
なぜこの状態になってから相談に来たのかと聞くと、女子学生は「やめてって何度も頼んだのに、行為をしないと恥ずかしい写真をネットでばらまくと脅されて、言うことをきいてしまった。妊娠して『どうしたらいいの』って彼に聞いたら『死ねよ。子供と一緒に』と言われ、もう本当に死にたくなって、家で首を吊ろうとしたら母に止められて……」と言うのです。
これは刑法上の罪に相当し、その上、今なお校内で無理に行為をさせられている。その日、女子学生が相手と待ち合わせているファミレスに同行しました。
情動面に問題のある加害者には、カウンセリングは即効性がありません。
私が直ちにすべきことは、事実を確認すること、罪を認めさせること、謝罪させること、責任を取らせることです。まだ学生ですから、男子学生の親にも息子の問題性に気づいてもらわなくてはなりません。
時間に遅れてきた男子学生は、体も顔も小さく、細い目をしていました。私を見て少し驚きましたが、さっと正面に座って女性を見据え、何か察知したかのように「もうこの人には近づきませんから」と言います。私は次々問い質(ただ)しました。
「顔を見せてください。彼女に無理やりしていたの?」
「はい」
「子供が生まれるけど、どうするつもり?」
「分かりません、僕は何もできないので」
「あなたには親がいるでしょう。明日、私の事務所に一緒に来てください。さもなければ警察に全て訴えます」
「でも僕の親はきっとあなたと彼女を侮辱します。いくら僕がそういうことをしたと言っても信じないから」
「この女性はあなたの子供を育てる。就職もできないんですよ」
「養育費とかですか」
「その前に反省と正式な謝罪、それからどう責任をとるか。あなたとだけ話しても不足だから、親と一緒に来なければ警察と弁護士に話します」
「僕の父は弁護士ですから大丈夫です」
その後、なかなか息子の非を認めようとしない両親と3度話し合いをもちました。結果的に子供が生まれる寸前に両家は示談し、被害者は加害者の子の親になりました。