『もののけ姫』で描かれた「たたら製鉄」は今…? 世界唯一のたたら場の総責任者が語った“永遠の課題”


【画像】かつては“秘伝”だったが…炎が吹き上がる「たたら製鉄」の釜を見る

 ここでは、「文藝春秋」2025年5月号掲載 「伝統の職人 たたら製鉄 最強鋼づくりの奥義」 を一部抜粋して紹介する。世界唯一のたたら場で、技師長兼総責任者を務める堀尾薫氏が語った、たたら製鉄の現状とは――。

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 現在、一緒にたたら操業を行うのは、村下代行と、上級から初級までの村下養成員の合計13名です。このうち7人がプロテリアルの社員で、残りは本職が刀匠の方々で構成されています。なかには、人間国宝候補と言われる三上貞直刀匠もいらっしゃる。自分たちが作り上げる日本刀の材料がどのようにできるのか、研究するために操業を手伝ってくれているのです。

 逆に、私は5年間、刀鍛冶としての修業を行い、文化庁が認定する国家資格「作刀承認」を取得しました。鉧の等級を決めるのも村下の仕事ですから、刀匠さんに満足してもらえる玉鋼を作るために、日本刀の作刀過程を知ることも重要と考えたからです。

 本操業は一年の中で1月と2月だけですが、たたらに関する仕事は一年中行っています。玉鋼ができると、まず行うのは鋼造という作業。強固な鉧をこぶし大ほどの製品に粉砕するのに約3カ月かかるため、5月末まで続きます。

 6月に入ると、砂鉄の採取と木炭の準備を始めます。材料が悪ければ良い玉鋼はできませんから、自ら吟味しなければいけない。たたらで使う木炭はバーベキューなどで使う固い炭と違い、燃えやすいように柔らかくしなければなりません。ナラやブナなどの落葉樹をたたら場に設置した木炭釜に入れ、自ら焼いて炭を作ります。

 砂鉄は鳥取県との県境にある山中で採取します。三代で消費する砂鉄は合計30トン。ただ、精製する前の砂から採れる砂鉄はわずか0.5%ですから、30トン採るためには6000トンもの真砂が必要となります。さらに言えば、30トンの砂鉄から作れる鉧は7.5トンで、良質な玉鋼にいたっては3トン程度。いかに歩留まりを上げて、一級品の玉鋼の割合を高めていくかが今後も永遠の課題です。



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