「解禁」から2年で「再規制」されるも、全土で8000軒の店舗が乱立する巨大市場に――
ジョイント(紙巻き大麻)をふかしながら、千鳥足で恍惚の表情を浮かべる観光客たち。路地裏ではオーバードーズで意識を失い、救急車で搬送される白人の姿もあった。
高級大麻に「和牛」の文字が…タイの″大麻ビジネス″最前線【写真】
’22年6月に大麻の個人使用が一部解禁され、世界中で議論を呼んだタイ。街にはカフェと見紛うきらびやかな装飾のディスペンサリー(大麻販売所)が溢れ、コンビニを探すよりも容易く視界に入ってくる。その数は、今やタイ全土で8000軒近くにのぼるという。
解禁から3年足らずの今年、大麻が再び規制の対象となった。タイの大麻事情はどうなっているのか。現地へ飛んだ記者が目にしたのが冒頭の場面だった。
◆「日本人の特徴は…」上客と言われるワケ
バンコクのメインストリート・スクンビット付近のディスペンサリーには、中東系の人々と日本人の姿があった。店内で接客を担当するのは、出稼ぎのフィリピン人である。店員のアナ(30)は、記者が「日本人だ」と明かすと、陽気な口調で話しかけてきた。
「大麻を買いに来るのは大半が観光客だよ。欧米人、中東系やインド人、韓国や中国、日本人も多いね。日本人の特徴は″グッドクオリティ″を求めること。値段の安さより質の高さを重視するので『上客』だよ」
一般的な販売価格は1gで200バーツ(約880円)から1000バーツ(約4400円)ほどと幅があるという。
タイの大麻市場は1700億円にのぼると言われ、巨大産業となっている。法改正が行われ、再び麻薬リストに入った今もその影響は感じられない。
ショップには、近隣国からの出稼ぎ労働者の姿もあり、雇用を生み出している。同じくフィリピンから出稼ぎに来ているというネル(32)が言う。
「これだけ店舗が増えると競争は厳しい。だけど儲かっているし、給料もいい。国が一気に規制なんかしたら失業者で溢れかえる。政府は本気で取り締まる気はないと思うよ」
ゴーゴーバーが密集する「ナナプラザ」では、大学生とおぼしき日本人グループが大騒ぎしていた。併設のディスペンサリーで購入した大麻を片手に、半裸のタイ人女性の接客を受け狂喜乱舞――。
こんな光景も「大麻解禁後は見慣れた光景になった」と日本人駐在員が明かす。
「バンコクは物価の上昇が著しく、もはや日本と大差ない。ですが、″大麻ツーリスト″は増えています。ただ、多くのタイ人は実は大麻を嫌っています。夜の街に繰り出すと大麻ツーリストのせいか、日本人が煙たがられる機会が増えました。複雑ですよ……」
◆”甘くはない”大麻ビジネス
バンコクからバスで2時間半。観光地であるパタヤに足を運ぶと、一層雰囲気は″緩く″なる。街中から少し離れたところに、大麻栽培を行う″農家″が点在していた。
パタヤのディスペンサリーでは、タイでも違法であるマジックマッシュルームが販売されており、大麻チョコレートや大麻クッキーが陳列されていた。日本人を意識しているのか、包装紙に「和牛」と書かれたブランドの高級大麻も並ぶ。
現地の法律では精神活性作用があるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の含有量は0.2%未満にするという規定があったが、多くの店が守っていないようだった。THC含有量が50%を超える大麻を販売する店舗の店員は、悪びれる様子は一切ない。
「厳密に守ろう、とは誰も思わない。客は″ストロング″を求めるしね」
まだ数は少ないながらも、大麻ビジネスに参入する日本人もいる。パタヤで大麻ショップ「Aozora Buds」を経営する佐藤光央さん(51)はこう語る。
「昨夏頃に法律変更の告知がありました。すでに法律で規制は変わりましたが、現場レベルは何も変化はないというのが正直な状況です。おそらく、10年経ってもこれは同じでしょう」
だが、経営は決して楽ではない。「観光客を相手に大麻を販売するだけでは、莫大な投資額に対しての回収は難しい」という。佐藤さんはこうも続けた。
「数億円規模の投資額ですから、タイでの商売だけではとても成り立たない。ウチもオランダ、ドイツ、オーストラリアなどの大麻合法圏への海外輸出がメインです。タイの法律では、外国人は49%までしか会社の株式を保有できません。信用できるタイ人のビジネスパートナーを探さねばならない。タイでの大麻ビジネスは甘くありません」
現地ではゴールドラッシュになぞらえ「グリーン(大麻)ラッシュ」という言葉が浸透していた。観光大国の「大麻バブル」は今後も続くのだろうか――。
『FRIDAY』2025年5月30日号より
FRIDAYデジタル