2025年9月3日、中国にとって「抗日戦争勝利80年」は歴史的な記念日として盛大に祝われました。この日、習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記を左右に従える形で、26カ国の元首や首脳と共に北京の天安門広場を行進しました。その眼前では、最新の中国軍装備を誇示する大規模な軍事パレードが展開され、中国国営メディアは世界に向けてその様子をライブで報じました。この式典は、80年前の追慕にとどまらず、現在の国際的な力関係を象徴するような演出が随所に組み込まれていたと見られています。
中国の抗日戦争勝利80周年記念軍事パレードで、習近平国家主席がプーチン大統領、金正恩総書記らと共に天安門広場を行進する様子
習近平主席の自信を支える核戦力の拡充
習近平国家主席の自信の背景には、中国の軍事力、特に核戦力の急速な拡充があると考えられます。今回のパレードで初公開された新型兵器は、その一端を如実に示しています。
新型ICBM「DF-61」の脅威
今回初めて登場した「DF-61型大陸間弾道ミサイル(ICBM)」は、中国の大型移動式発射機に搭載される道路移動式ICBMとして開発された、「DF-41」の後継にあたります。これまでのDF-41は、最大射程1万1200km、最大10個の核弾頭を搭載可能とされ、米国防総省は鉄道移動型や堅牢な竪穴式発射装置(サイロ)による運用も検討されていたと分析していました。
DF-61に関する情報はまだ少ないものの、米誌Newsweek(2025年9月3日付)は、最大推定射程を約1万5000km、最大10個の核弾頭を搭載可能と報じています。もしこの射程が正しければ、DF-41を上回り、米本土だけでなく欧州のNATO諸国も射程に収めることになります。
多様化する中国のICBM発射方式
中国はICBMの発射方式の多様化を推進しており、その例はDF-41以外にも見られます。今回披露された「DF-31BJ」の基となっている「DF-31型大陸間弾道ミサイル」は、中国初の固体燃料式長距離弾道ミサイルとして位置づけられています。1992年に最初の試射が行われ、1999年の軍事パレードで初公開されました。
諸元は全長13m、直径2.25m、射程8000km(DF-31Aは1万km)とされ、「反ファシスト戦争勝利70周年軍事パレード」では性能が向上したとされる「DF-31AG」が初めて公式に披露されました。「航空自衛隊航空研究センター」(2025年1月22日)によると、DF-31AGの最大射程は約1万2000kmとされており、DF-31シリーズは最初の試射から30年以上にわたり性能向上が図られてきたことが分かります。
さらに、中国は竪穴式のICBM発射装置、いわゆるサイロの建設を急ピッチで進めています。今回パレードで披露されたDF-31BJは、サイロ化により適した新型ミサイルとも見られ、この大規模なサイロ建設に対応したものである可能性が指摘されています。
海と空からの核抑止力:JL-3 SLBMとJL-1空中発射ミサイル
今回のパレードで初めて公開された「JL-3潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)」については、令和5年版「防衛白書」で「射程1万2000kmに達するとされる射程延伸型のSLBM JL-3がジン級SSBNにすでに搭載されているとの指摘もある」と述べられています。巨大なジン級(094型)弾道ミサイル原潜が南シナ海に潜伏したまま、米本土や欧州NATO諸国(英仏)をも射程に収める能力を持つことになります。
8月には日本の港に寄港した英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」を中心とする多国籍艦隊CSG-25が、第二次世界大戦中に日本軍に撃沈された戦艦プリンス・オブ・ウェールズを海上自衛隊と追悼するため、南シナ海に入る予定です。この追悼儀式のため艦隊が南シナ海に入ることは、結果として中国の潜水艦が潜む海域を探る動きとなる可能性も秘めています。
また、パレードで初公開された「JL-1空中発射弾道ミサイル」は、すでに退役したSLBM「JL(巨浪)-1」と略称が同じであるため混同されやすいですが、これは中国のH-6N爆撃機に搭載される「極超音速滑空体(HGV)ミサイル」です。ブースターによってマッハ5以上の極超音速に加速された後、切り離された先端部が極超音速で滑空し、機動しながらミサイル防衛を回避しつつ標的を目指します。核・非核両用であり、米TWZ(2025年9月4日付)は射程が8000kmに及ぶと報じています。これが事実であれば、中国は大陸間弾道ミサイル並みの射程を持ち、ミサイル防衛を避けるように機動するミサイルを披露したことになります。
このように、中国は核弾頭の運搬手段を多角化しようとしている様子が鮮明です。
中国の急速な核兵器拡張:その戦略的意味
米国防総省が議会に提出した2024年版「中国の軍事力及び安全保障環境」報告書では、「2023年、北京は急速な核兵器拡張を継続した。米国防総省は、中国の保有する運用可能な核弾頭数が2024年半ば時点で600発を超え、2030年までに1000発を超えると推定している。(中略)中国は少なくとも2035年までは戦力増強を継続するだろう」(CSIS 2025年9月4日付)と記述されています。
中国による核兵器の多様化と大幅な拡張は、国際社会、特に米国やその同盟国にとって、どのような戦略的意味をもたらすのでしょうか。これは、世界の安全保障環境に深刻な影響を与え、新たな軍備競争の引き金となる可能性も秘めています。
参考文献
- FNNプライムオンライン. (2025年9月8日). [中国ICBMは発射方式が多様化]. [Source link] (https://news.yahoo.co.jp/articles/086843bb5043452e6db416ba20b3c5ff1b9a4478)
- Newsweek. (2025年9月3日). (DF-61に関する報道).
- 航空自衛隊航空研究センター. (2025年1月22日). (DF-31AGに関する分析).
- 防衛白書. (令和5年版). (JL-3 SLBMに関する記述).
- TWZ. (2025年9月4日). (JL-1空中発射弾道ミサイルに関する報道).
- CSIS. (2025年9月4日). (米国防総省2024年版「中国の軍事力及び安全保障環境」報告書に関する引用).