(国際ジャーナリスト・木村正人)
■ 1000人対1000人の捕虜交換
[ロンドン発]ウクライナとロシアはイスタンブールでの2国間交渉で合意された1000人対1000人の捕虜交換の手始めに5月23日、390人対390人の戦争捕虜(POW)と民間人を交換した。その一方でロシア軍は戦場でウクライナ人POWを処刑しているとされる。
【写真】5月19日、トランプ大統領との電話会談中のゼレンスキー大統領
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は「捕虜交換はトルコで合意された唯一の重要な成果だ。それ以外はすべてロシアによって阻止されている。停戦と真の平和に向けた外交的措置、新しく効果的な安全保障体制が必要だ」と西側に再度ロシアへの圧力強化を求めた。
セルゲイ・ラブロフ露外相は「2014年に血なまぐさいクーデターで権力を握ったクーデター主義者が行ったことの繰り返しにならないような合意でなければならない」と牽制(けんせい)した。クーデターとは親露派ビクトル・ヤヌコビッチ元大統領を追放した「尊厳の革命」を指す。
ラブロフ氏はウクライナで大統領選が行われていないことを理由にゼレンスキー氏は正当な指導者ではないとしてウクライナ最高会議(立法府)指導部との交渉を求めた。将来の和平条件としてウクライナの政権交代をあらためて求めた。バチカンでの交渉は「不快」と一蹴した。
■ 英専門家「トランプ氏の和平プロセスは不調に終わる」
大量の捕虜交換に調停者のドナルド・トランプ米大統領は自らが創設したSNS「トゥルース・ソーシャル」に「双方の交渉に祝意を表する。何か大きな進展につながるかもしれない?」と投稿した。しかしこれはトランプ氏の怒りをかわす双方の偽りの交渉術かもしれない。
戦争研究の第一人者、英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は自らのブログ(5月22日付)に「情事の終焉:トランプ氏の和平プロセスは不調に終わる。これからどうなる」と題しボブ・ディラン氏の「くよくよするなよ」の歌詞を引いている。
♪君が僕に冷たくしたとは言わない
君はもっと上手く付き合えたかもしれないが、気にしていない
君は僕の貴重な時間を無駄にしただけさ
くよくよしなくていいよ(筆者仮訳)
「それはトランプ氏の2つの誤解から始まった。プーチンは自分と同じように和平を望んでいる、ロシアとの関係が正常な状態に戻れば大きな経済取引が成立するというものだ。しかし経済政策の関税で失敗したように外交政策の大きな交渉に失敗した」(フリードマン氏)