かつて、マクロン大統領が「フランスの誇り」と持ち上げた世界的俳優がピンチだ。1990年に日本でもヒットした「シラノ・ド・ベルジュラック」でカンヌ国際映画祭男優賞を獲得した、ジェラール・ドパルデュー(76)である。
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撮影スタッフに性的暴行
昨年2月と3月、彼は2021年に撮影された映画「緑のシャッター」の美術担当者(54)と助監督(34)の2人の女性から“撮影の合間に体を触る性的暴行を受けた”と提訴された。今月13日にはパリの裁判所で判決公判が開かれ、執行猶予付きながら有罪判決が言い渡されたのだ。
地元紙記者によれば、
「本人は昨年3月の初公判以来、出廷していません。この日も“ポルトガルで撮影中”として欠席した」
国民的スターという立場を慮ってか、捜査や公判手続きは慎重に進められた。
昨年4月に警察の取り調べを受けた際は、その日のうちに帰宅が許され、10月に弁護士が「依頼人は糖尿病を患っており出廷できない」と訴えると、裁判所は審理を延期。検察がドパルデューの健康状態に関する鑑定を実施すると、担当医は以下の条件を求めた。
・1日の審理は6時間以内
・3時間ごとの15分休憩
・個室トイレの利用
・血圧と血糖値を測定する部屋の用意
・被告人が審理中にキャンディーバーを口にする許可
これらを受け入れたパリ刑事裁判所で審理が始まったのは、今年の3月だった。
現地メディアによれば、原告の美術担当者は「(ドパルデューが)私を両足の間に挟み込み“さあ、僕の大きな日傘に触って。Chatte(メス猫の意)に入れてやるから!”と言いながら胸や腰をまさぐった」と主張。助監督も「胸や腰、お尻などをまさぐられた」と訴えた。対してドパルデューは「(女性が)倒れないように腰をつかんだ」「76歳で体重150キロの私が、女性をまさぐって楽しむつもりはない」と容疑を否認したとされる。
性犯罪者ファイルに登録
パリ検察はドパルデューに、懲役1年6カ月(執行猶予3年)と2万ユーロ(約325万円)の賠償、心理療法の受診と2年間の被選挙権停止、さらに性犯罪者ファイルへの登録を求めた。対するドパルデュー側は、彼の旧友でフランスの“国民的女優”ファニー・アルダン(76)を証人出廷させて寛大な措置を求めた。が、判決はほぼ求刑通り執行猶予付きの禁錮1年6カ月、2年間の被選挙権停止、性犯罪者ファイルへの登録という厳しいものとなった。
フランスでは、刑事裁判の中で損害賠償を請求することが可能だ。それにより、ドパルデューは美術担当者に利息を含めた損害賠償金4000ユーロ(約65万円)を、助監督に2000ユーロ(約33万円)を支払うよう命じられた。
加えて、ドパルデューの弁護団が公判で原告たちを「うそつき」「ヒステリック」「金に執着する」などと激しく非難したことも問題視された。結果、それらが「二次的被害」に当たると認められ、彼女らにそれぞれ1000(約16万円)の支払いも加えられている。
奇しくも判決が下されたのは、第78回カンヌ国際映画祭の開幕日。審査委員長で、渦中のドパルデューと共演経験がある女優のジュリエット・ビノシュ(61)は“フランス映画界の聖なる怪物”と呼ばれるドパルデューに下された判決に、以下のようにコメントした。
「彼は怪物ではなく、司法の裁きを受けて神聖性を剥がされた、ただの人間」
ドパルデューは控訴したが、彼が抱える訴訟は暴行罪(強姦罪)を含めて6件。
騒動は収まりそうにない。
ジャーナリスト・広岡裕児
「週刊新潮」2025年5月29日号 掲載
新潮社