政府は26日、大雨時にダムが果たす役割を強化するため、関係省庁による検討会議を設置し、首相官邸で初会合を開いた。来夏の東京五輪・パラリンピックを見据え、来年の梅雨や台風シーズンの到来に備えるため、同会議は国土交通省を中心に基本方針の策定に取り組み、来夏ごろからの実施を目指す。
国交省によると、全国で治水機能を含む多目的ダムは約560基、発電や農業用などの利水用ダムは約900基ある。ただ、洪水調整や農業用水、発電などダムの用途によって所管省庁が異なり、想定外の大規模災害の際に放水判断などで機動的に対応しきれなくなっている。
同会議ではこうした既存のダム施設の運用を見直し、大雨が予想される場合は利水用の水を事前に放流して治水機能を強化することなどを検討する。
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10月の台風19号でダムの特性が注目された群馬県の八ツ場ダムは「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた旧民主党政権下で事業が一時凍結された過去がある。台風19号では利根川水系の栃木県内7河川9カ所で堤防の決壊が確認されたが、いずれも八ツ場ダムの下流ではない別の支流だった。大雨の際に洪水の貯水機能を果たし、地域の命を守るダムの機能が改めて見直された。
ただ、ダム建設は巨額の建設費用がかかる上、人口減が進む自治体の多くは財政難と人手不足で修繕などの維持管理が難しい。そのため、政府は今後、既存の国内ダム全体で水位調節に使える貯水量をダムの種類に関係なく一元的に把握し、洪水対策に活用できるよう運用を改める。
一方、ダムをめぐる政府の今回の対応は、菅義偉(すが・よしひで)官房長官と自民党の二階俊博幹事長の「菅-二階ライン」のシンボルとなりそうだ。二階氏は台風19号発生直後の10月17日、八ツ場ダムを視察し、記者団に「(八ツ場)ダムができて一定の成果があった」と評価。菅氏も周囲に「八ツ場ダムはよく持ちこたえた」と語り、歩調を合わせてきた。
両氏は防災・減災の3カ年緊急対策など国土強靱(きょうじん)化策で足並みをそろえるが、首相官邸と党と立ち位置が異なり、必ずしも利害関係が一致するわけではない。二階氏は政府が策定中の令和元年度補正予算案について「10兆円程度は必要」と注文をつけている。両氏の力関係を占う意味でも補正予算案の規模が今後焦点になる。(大島悠亮)