農協は“悪の組織”なのか?元JA職員「ショッカーではない」「余分に儲ける仕組みがない」農家「絶対に損しない商売」


【映像】JAと農家の間で決められた“お金”の仕組み(図で解説)

 実情を探るべく、千葉県で50年にわたりコメ作りをしている染谷茂さん(75)を訪れた。「この(田んぼ)1枚で2.5ヘクタール。コシヒカリだと200俵、他の品種だと250俵が取れる」。総面積は150ヘクタールで、東京ドーム約32個分の広さ。従業員10人でコメ作りを行い、収穫したコメは3割ほどを農協に出荷し、あとは直接販売している。

 昨今の「農協批判」について、染谷さんは「農協というのは、農家の組合員の組織だ。それが急になくなったら大変なことにある。コメ農家それぞれが自分で売り先を探すのは大変なこと」と実情を明かした。

 例えば、1軒の農家が生産するコメや野菜を出荷する際、どうやって運び、どこで売るのか。もし1軒だけでやろうとすると、運搬も売り先も、価格交渉も、すべて自前でやらなければならない。生産に必要な道具や肥料も、その都度、自前で購入する必要がある。また凶作や自然災害に備えるための資金も、自前でまかなわなければならない。

 そこで、農家が集まり互いに助け合い、1軒の負担を軽減しようとした。生産力を高め、収入の安定だけでなく、将来のために資金を積み立てる。そんな農家が集まり、全国規模となり、巨大化したのが農協、現在のJAだ。

 高津佐氏は「自分で売るということは、営業活動しないといけない。それ以外にも経費がかかる。その経費分を効率的にできるのかどうかをてんびんにかけて、自分で売るのか、JAに出すのかを決めることが大切だ」と説く。

 JAは全国に496存在し、組合員は約1000万人。およそ16万6000人が職員として働いている。“巨大な会社”に見えるが、株式会社ではなく、利益を追求しない「協同組合」となっている。

「一般の事業者のように、1万円で買った物を1万5000円や2万円で売ることは、基本的にはできない。その逆に、1万円で仕入れた物を8000円、7000円など赤字で売ることも、基本的にはできない。農家から預かったコメを1万円で売ったら、そこから規定の手数料をもらう。それ以外に配送料や保管料などの実費は別でもらうが、農協の利益は手数料しかない。高く売る仕組みや、余分に儲ける仕組みがないのが農協だ」(髙津佐氏)

 JAの主な役割は「購買」「販売」「指導」で、「共同購入」「共同販売」の事業では、原則として独占禁止法から除外されている。そこには、大企業と争うこと自体が困難な農業者たちの組合という立て付けになっている。

 髙津佐氏は「優遇されているのは、独禁法の適用除外があるのも一つだが、同じ組織の中で『共催事業』の保険事業と、『信用事業』の銀行業務をやっていいという特例が、JAの特別なところだ」とも話す。

 特例で守られたJAには、「JA共済連」と「農林中央金庫」が存在する。JAの金融サービスを提供する「JAバンク」の預金量は約108兆円(2024年)と潤沢で、個人預貯金の国内シェアの約10%を占め、3大メガバンクに追随するレベルだ。

 またJA共済が保有する国債や株式、不動産などの総資産は58兆円と、日本の国家予算の約半分ほど。経済事業の「JA全農」は赤字傾向だが、世界有数の事業規模を持つ金融事業によって、補てんされてきた。

 農協は戦後、GHQの指示で「農業協同組合法」が制定されて生まれた。国がコメの流通を管理し、生産者も国への売り渡しが義務化された。コメの買値も売値も、すべて国が決めた価格だったが、その際に国と農家の間に入っていたのが農協だ。米価の価格調整をして、安定化を図ることが、重要な役割だった。

 1995年に「コメの自由化」が始まり、流通も価格も自由化が促進され、国の役割は備蓄米の運営などに限定された。農家はJAに加入するか選べるようになり、2023年度米におけるJAのコメ集荷率は全国平均で54%だった。

 では、農家と農協の関係は、現在どうなっているのか。染谷さんによると、「農協がコメを買う場合は、概算払いになる」という。概算金とは、農家から買い上げる際に、農協が提示する値段だ。相場や市況を鑑みて決められ、集荷の際に一括で農家に支払われる。

「農家が収穫して、玄米を農協に出荷する。検査を受け、農協の倉庫に入ると、1俵あたりいくらですよと概算金(仮渡金)が農家に来る。その後、全農は売り先を探して売って、その売り上げから経費や儲け(手数料)を引き、余ったら清算する。絶対に損しない商売、それが概算。おかしいと思わなければおかしくないが、おかしいと思えばおかしくなる」(染谷さん)

 概算金よりコストが上回ると赤字になる。JAのサポートがあるのに、赤字農家が減らないのはなぜか。髙津佐氏は「生産性高く農業経営できているかどうかだ。農業生産できているかを追い求めている人と、放漫経営をしている人とは、やはり全然違う。経営能力や経営管理の差だろう」と推測する。

 また、コメ高騰については「今回のことは、いずれ起こったと思う。戦後の物が足りなかった時代は、すごく上手に機能していた。時代が変わったが、組織が大きくなりすぎて、新しい方向に舵を切りづらい。JAの舵取りは非常に厳しい局面だ」とみている。

 染谷さんもまた、ジレンマを感じている。染谷さんの田んぼは借りたり譲られたりしたもので、その相手は350軒にのぼるという。「350軒の農家が米作りをやめてくれたから、うちが成り立っている。国は規模を拡大、農地の集積をどんどんやって機械化しろと言うけれど、その裏にはそれだけやめていく農家がいる。工夫していかなかったら、生き残れない」。

 ジャーナリストの青山和弘氏が、JAの現状を説明する。「(JA全農やJA経済連の)経済事業は幅広い。農畜産物の販売や加工もそうだが、ガソリンスタンドもやっている。ここでの儲けは薄く、結局は銀行(JA信連・農林中央金庫といった信用事業)で儲けている。専業農家のみならず、兼業農家のサラリーマンの給与も預金してもらい、運用で稼いでいる」。

 しかしながら、「信用事業の銀行や共済事業の保険を存続させるのと、農業発展のためにどうしたらいいかということは、利益が相反することがある。日本の農業の競争力を保つには、集約化しないといけない。そうしないと、コストがかかり、赤字の農家が増え、高い農作物ができるので下げないといけない。しかし銀行業をやるためには、零細農家を守らないといけない。会員数が減れば、預金が減るからだ。『預金を守るため』『日本の農業を持続可能にするため』が利益相反することがある。このような組織自体が古くなってきているのでは」と指摘する。

 JAの数は、2011年度の711から、496まで減少した。「コメも54%しか取り扱っておらず、農協に入るのも自由になり、農協を通さない人もいる。ただ、それは自分でネットや道の駅といった販路がある人たち。それができない人は、農協に頼らざるを得ない状況。減ってきているが、まだ力を持っている。こうした農協を変えていけるかが、いま問われている」。

 そこで注目されているのが、小泉農水大臣の動きだ。「小泉氏が言っているのは『農家のための組織ではないのか』。もちろん農家のためには、販路を作り、天候が悪かったときなどに助け合う組織が必要だ。それに特化してくれればいいが、金融機関として儲けを優先したり、保険事業の会員を増やしたりとすると、農家のためのようで、そうではなくなっているのではと問題視している。そこで解体や、地域の独立性を高められないかと言っている。農業と言っても、地域によって特性は違うので」と、青山氏は解説した。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

ABEMA TIMES編集部



Source link