2015年5月29日、鹿児島県口永良部島の新岳で発生した大規模な爆発的噴火は、島民137人全員の島外避難という事態を引き起こし、長期にわたる避難生活は彼らの日常を一変させました。火山と共に暮らす厳しさを改めて思い知らされたあの日から、2025年5月で10年を迎えます。この10年の間に、島外に避難したまま戻らなかった住民や、進学・就職で島を離れる若者もおり、島の人口は減少傾向にあります。一方で、大規模噴火や全島避難を経験していない新たな住民も増えています。10年の月日を経て、現在の口永良部島はどのような様子なのか、そして島の人々の暮らしにどのような変化があったのか、島を訪ねての報告です。
屋久島沖に浮かぶ火山島 豊かな自然と火山の痕跡
鹿児島県の南、屋久島の西およそ12キロメートルに位置する口永良部島は、ひょうたんのような独特の形をした火山島です。面積約36平方キロメートル、周囲約50キロメートルのこの島は、手つかずの自然が多く残り、2012年には島全体が「屋久島国立公園」に、さらにユネスコの生物圏保存地域（ユネスコエコパーク）にも指定されています。島内には豊富な温泉が湧き出ており、火山の恩恵を肌で感じられる場所もあります。
屋久島から口永良部島へのフェリー口永良部島へのアクセスは、屋久島からのフェリーが一日一便運航しています。フェリーから島を眺めると、緑深い山肌に、過去の土石流が流れ下った跡のような筋が見て取れます。注意深く見ると、地層が幾重にも重なり、活動的な火山の長い歴史を物語っているのが確認できます。
2015年大規模噴火の記憶 「逃げろ！」緊迫の全島避難
2015年5月29日午前10時頃、口永良部島の新岳で爆発的な噴火が発生しました。噴火は大規模で、噴煙は火口から9000メートルを超える高さまで到達しました。気象庁が記録した映像には、新岳から灰色の噴煙が凄まじい勢いで噴き出し、一瞬にして高く立ち昇る噴火の瞬間が捉えられています。
噴火当時、漁に出ていた島民が海上から撮影した映像には、噴煙が猛烈な速さで膨張しながら海側へ流れ来る様子が映っています。「逃げろ！逃げろ！」と叫ぶ緊迫した声も記録されており、この噴火が地元住民にとってどれほど恐ろしく、切迫した状況であったかが伝わってきます。
2015年口永良部島新岳の爆発的噴火の瞬間この噴火では火砕流も発生し、その一部は海岸まで到達しました。島にいた137人の全住民に避難指示が出され、彼らは島外での避難生活を余儀なくされました。避難指示が一部地域を除いて解除されたのは同年の12月で、島民は実に7ヶ月間にも及ぶ避難生活を送ることとなりました。
噴火から10年 人口の変化と島の未来
大規模噴火とそれに続く全島避難は、口永良部島の社会構造にも影響を与えました。避難生活を経て島に戻らなかった住民や、島外に進出した若者により人口は減少し続けています。一方で、噴火の経験を持たない新たな移住者や、当時幼かった世代が成長しています。島民の中には、10年前の恐怖を鮮明に覚えている人々と、噴火を直接経験していない世代や新規住民が混在する状況が生まれています。火山活動への向き合い方や防災意識、コミュニティの維持など、島は新たな課題に直面しながら、噴火後の10年を歩んでいます。かつて経験した全島避難という過酷な過去を乗り越え、火山と共に生きる島の未来が模索されています。
