高校時代、交換留学でスウェーデンに学び、大学卒業後はスウェーデン大使館商務部勤務。その後、理想の子育てを求めて家族でスウェーデンに移住した久山葉子氏は、『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン著、新潮社刊)をはじめ多くのベストセラー書籍の翻訳者として知られるほか、著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』(東京創元社刊)』 のあるエッセイストでもある。
以下は、新刊翻訳書『多動脳』(アンデシュ・ハンセン著、新潮社刊)についての、氏による寄稿である。
◾️ADHDは「職場の困った人」?
ちょうど『多動脳』が刊行になった前後に、職場の困った人をうまく動かす心理術に関する本が炎上した。発達障害や精神疾患を抱える人々を助ける立場のカウンセラーが、そういう方々を「職場にはびこる困った人」という描き方をするのには驚いた。特性を理解して、職場などでお互いにストレスを減らそうという取り組み自体は大切だと思うが。この本の表紙やタイトルだけ見て、「自分は社会に迷惑な存在なんだ」と思ってしまった人はいるだろう。
そんな方に『多動脳』を勧めたいのは、ADHDの強みについて分析しているからだ。ADHD傾向が強い人には多動、衝動性、集中困難などがあり、教室や職場にじっと座って言われたとおりにやるのが苦手だということがある。しかしそれとまったく同じ脳の仕組みが、クリエイティビティや実行力、ハイパーフォーカスといった、他の人にはない強みを与えてくれるのだ。起業家にADHD傾向の高い人が多いというのもうなずける。
とはいえ小学校のクラスでうろうろする子や騒ぐ子がいて先生も他の生徒も大変だという話もよく耳にする。どうすればそういった子どもたちと共存できるのか━━それは難しい問題だ。
わたしも子どもがADHDと診断されている。ただし昔ADDと呼ばれ、今は不注意優勢型ADHDと呼ばれる種類で、態度に現れる多動はなく、むしろ静かで目立たない。その上、これもADHDの特徴の1つだが、非常に繊細さんで、他の子の声や物音、匂いなど、色々な刺激に圧倒されて、1日学校に行っただけで疲れ果ててしまう。そういう意味では同じADHDの子ども同士でも共存が難しいのが現実だ。