パチンコ買収事件で「デルパラ」社長ら逮捕:参院選巡る組織的関与の背景と業界の苦境

7月の参院選を巡り、自民党公認候補への投票の見返りにパチンコ店運営会社が従業員に報酬を約束したとされる買収事件で、大手パチンコチェーン「デルパラ」(東京都港区)社長の山本昌範容疑者(50)ら幹部が公職選挙法違反(買収約束)の疑いで逮捕されました。この事件は、長年にわたる低迷にあえぐパチンコ業界が、政治力を通じた現状打破を試みた背景を浮き彫りにしています。

パチンコ店の窓に貼られた参院選候補者のポスター:業界の政治活動と密接な関係パチンコ店の窓に貼られた参院選候補者のポスター:業界の政治活動と密接な関係

パチンコ業界の深刻な低迷と政治への期待

パチンコ業界は過去30年間、深刻な低迷に直面しています。「レジャー白書」や警察庁の統計によると、全国のパチンコホール数は2024年末に6700店と、ピークだった1990年代半ばから3分の1に減少。パチンコ参加者(愛好家)も2023年には660万人で、1994年の約2割にまで落ち込みました。業界内では、「国の規制が厳しくなり、射幸性(ギャンブル性)を落とされて客離れが進んでいる」との不満が根強くあります。こうした状況下で、業界は規制緩和や税制優遇を得るために政治への働きかけを強めてきました。近年、自民党の有志議員で構成される「遊技産業議員連盟」の活動により一部の規制見直しがあったことも、業界が政治の力を重視する背景にあります。

組織内候補・阿部恭久氏の擁立と落選

このような状況の中、パチンコ業界は7月の参院選で、自民党公認候補として阿部恭久氏(66)を業界初の「組織内候補」として擁立しました。参院選の比例代表は全国が一つの選挙区となるため、組織票が大きな効果を発揮するとされています。阿部氏は、業界の規制緩和や税制優遇のために政治の力が必要だと繰り返し力説していました。業界は議席獲得を目指し熱心な選挙活動を展開しましたが、阿部氏は惜しくも落選しました。

「デルパラ」の社風と異例の大規模捜査

今回逮捕者が出たパチンコ店運営会社「デルパラ」について、業界関係者は「押しの強い営業と上意下達の社風で知られている」と指摘しています。別の関係者からは、「自前の選挙は初めてだったので慣れていなかったのだろう。業界ではもう組織内候補は出せない」との声も聞かれます。今回の公職選挙法違反容疑を巡っては、各地の警察が情報を掴み、本社を管轄する警視庁と店舗がある7県が合同捜査本部を設置。捜査員約250人という異例の規模で捜査が進められています。今後は、各店長や従業員らの立件に向けた捜査が進められるとともに、阿部氏がこの買収行為にどの程度関与していたのかについても慎重に調べられる見通しです。

阿部氏、関与を否定し遺憾を表明

阿部氏は取材に対し、「コンプライアンス(法令順守)やリーガルチェックはしっかりやってきたつもり。非常に残念で遺憾だ」と述べました。山本社長とは電話で一度話した程度だとし、「指示したらアウトでしょ」と自らの関与を否定しています。

今回のパチンコ業界を巡る買収事件は、長年の業界低迷が政治への過度な依存を生み出し、結果として公職選挙法違反という形で表面化したものと言えるでしょう。捜査の進展とともに、業界と政治の健全な関係構築に向けた議論が深まることが期待されます。


参考文献: