韓国で尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領が「非常戒厳」を宣言してから3日で半年。国民が新大統領に選んだのは、3年前の大統領選で尹氏に競り負けた革新系政党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)氏だった。大統領不在で弱った政治の正常化と、さらに深まった保守・革新の対立解消を期待する声が多いが、李氏への不信感も根強い。日韓関係の行方についても両国市民に不安と楽観論が交錯する。
【動画】出口調査の結果を見て歓喜の声に包まれたソウル市の会場
「51%! 私たちが勝ちました」。3日午後8時過ぎ、主要テレビ局が出口調査の結果、李氏が大きくリードしていると伝えると、ソウル市中心部の広場に集った革新支持者たちは拳を突き上げ、歓声を上げた。午後11時半過ぎになって複数メディアが李氏の「当選確実」を相次いで報じ、会場は歓喜の声に包まれた。
同市の韓東熙(ハンドンヒ)さん(28)は戒厳令後から尹氏を批判するデモに参加してきた。「多くの国民が民主主義を守るために闘ったことが李氏の勝利につながった」と喜んだ。同市の会社代表、鄭鶴範(チョンハクボン)さん(57)は、李氏が保守層にも受け入れられる政策を打ち出し「国民は統合に向かうのではないか」と期待する。
一方で「統制が不可能な大統領になるかもしれない」と懸念するのは、保守系政党「国民の力」を支持する同市の30代男性会社員。与党となる共に民主党の議員数が国会で半数を超えており「独断的な政治が横行するのではないか」と気をもんでいる。
釜山市の会社員(45)は保革ともに支持していない“中間層”だ。「こんなに(保革の)分断が深まったのは初めてではないか。(簡単には修復できず)最悪の時代だ」と話す。同じ中間層の同市の大学4年、梁宝元(ヤンボウォン)さん(24)は「まずは国内政治を安定させてほしい」と願うばかりだ。
日韓関係はどうなるのか。ソウル市内の豚骨ラーメン店「豚人」代表、松本祐佳さん(46)は「ものすごく心配している」。文在寅(ムンジェイン)政権時代の2019年に不買運動「ノージャパン」が起きた。交流サイト(SNS)に出回った「不買リスト」に店名が出て、売り上げが約30%落ちた。「結局、影響が大きいのは一般の市民。何事もなく任期が終わるのを祈っている」
事前投票を終え、福岡市を旅行で訪れていたソウル市の女性会社員(31)は「日韓関係が文在寅政権の時代に戻りそう」と考えている。ただ「政権と旅行の行き先はまったく関係ない」とも述べ、今後も変わらず日本を訪れたいという。
軍事政権が民主化運動を弾圧した光州事件があった光州市は革新系の地盤。共に民主党支持者で、市内で同事件のガイド役を務める金容哲(キムヨンチョル)さん(70)は「ノージャパンは昔のこと。韓日関係についても尹氏の親日姿勢を引き継ぐだろう」と語った。(丸田みずほ=ソウル、平山成美)