静かに進む日本の農地買収:外国人による土地取得の実態と経済安全保障上の盲点

美しい日本の田園風景。しかし、その土地の所有者が今、静かに変わりつつあるのをご存知でしょうか?近年、日本の農地を外国人や外国法人が取得するケースが増えています。政府は令和5年9月以降の取得について、国籍や在留資格の報告を義務付けましたが、それ以前の実態は不明瞭なまま。しかも、この動きには「外資規制がない」という、経済安全保障上の大きな懸念が隠されています。今回は、ベールに包まれた日本の農地取得の現状と、その背景にある問題点に迫ります。

最新のデータは何を語る?透明性の課題

農林水産省の発表によると、令和5年中に、日本国内に居住すると見られる個人219人が合計60ヘクタールの農地を取得しました。また、外国法人は20社が合計30ヘクタールを取得しています。合計で90ヘクタールもの農地が、外国籍の個人または外国法人によって新たに取得されたことになります。

しかし、これらの取得者の詳細な内訳については、「個人情報」を理由に公にされていません。この情報の不透明性は、一体誰が、どのような目的で日本の農地を取得しているのかという、実態把握を難しくしています。

農地法では、農地取得の際に実際に農業に従事すること、そして市町村の農業委員会などの許可を得ることが義務付けられています。農林水産省の担当者は「計画通りに農業が行われているかよりも、今は遊休農地になっていないかの確認が中心」としつつも、「農地を農業以外の目的に転用すれば、それは明確な法令違反にあたる」と述べています。

土地政策コンサルタントの田中健一氏は、「農地法は本来、『耕作すること』を厳格に求めるべきものです。しかし、現状のチェック体制では、土地が利用されているかどうかに焦点が当たりがちで、計画通りの営農が実際に行われているかまで踏み込めていない可能性があります。国家の食料安全保障の観点からも、より厳格な確認体制の構築が求められます。」と指摘しています。

日本の美しい田園風景。静かに進む農地取得の現状を示すイメージ。日本の美しい田園風景。静かに進む農地取得の現状を示すイメージ。

首都圏の実態:千葉、埼玉、神奈川の具体的な動き

この農地取得の動きは、地方だけでなく、都市部やその周辺でも確認されています。特に首都圏の1都3県の実態を調査すると、具体的な取得事例が見えてきます。

各地の事例

  • 千葉県: 令和5年には、韓国、パキスタン、モンゴル、台湾、タイ、スリランカ、米国籍の個人が合計約5万5000平方メートル(5.5ヘクタール)の農地を取得しました。19件の取得事例が報告されています。その前年の令和4年にも、中国の法人が約4000平方メートル、スイスやスリランカの個人が合計7700平方メートルを取得しています。
  • 埼玉県: 令和5年、中国、韓国、フィリピン、台湾籍の個人が合計約7000平方メートルを取得。加えて、中国と韓国の法人が合計約7200平方メートルを取得しました。
  • 神奈川県: 中国、韓国、パキスタン籍の個人による合計約2500平方メートルの取得が確認されています。
  • 東京都: 東京都の農業基盤整備担当課に取材したところ、「都内で外国の方・企業による農地の購入事例はございません」との回答を得ました。

これらのデータは、決して大きな面積ではないかもしれませんが、日本の基盤である土地が、多様な国籍の個人や法人によって少しずつ取得されている現状を浮き彫りにしています。

首都圏(千葉、埼玉、神奈川など)で外国人や外国法人が農地を取得している地域を示す概略イメージ。首都圏(千葉、埼玉、神奈川など)で外国人や外国法人が農地を取得している地域を示す概略イメージ。

「相互主義」の落とし穴:中国との非対称性

国際的な通商や交渉において、日本は「相互主義」の立場を基本としています。これは、相手国が日本に対して与える待遇と同様の待遇を、日本もその相手国に与えるという考え方です。

しかし、これが土地の取得となると、特に共産主義国家のような国との間では大きな問題が生じます。例えば、中国では、日本の法人や個人が中国国内の土地を所有したり、ましてや農地を取得することは事実上不可能です。

千葉県の折本龍則県議は、この非対称性を強く問題視しています。6月県議会でもこの点を取り上げる構えを見せており、「中国では日本人が土地を買えないのに、日本では許可さえ得れば中国の法人や個人が農地を取得できるのは、公平性に欠けるのではないか」と訴えています。このような相互性の欠如は、日本の安全保障上のリスクを高める可能性も指摘されています。

経済安全保障と水源地への懸念

今後、日本に在留する外国人が増加し、永住権の付与も増えることが見込まれる中で、日本の土地、特に農地や水源地に関する外資規制の緩さは、ますます懸念材料となっています。

安全保障問題研究家の佐藤綾子氏は、「農地は単に食料生産の場であるだけでなく、国土の保全や水源の涵養といった多面的な機能を持っています。これらの基盤となる土地が、詳細不明な形で外国籍の手に渡ることは、長期的な視点での国家の経済安全保障、特に食料安全保障や水資源管理に影響を与えかねません。」と警鐘を鳴らしています。

現状の外資規制の盲点を指摘し、折本県議をはじめとする関係者は、「まずは政府も自治体も、過去にさかのぼって農地取得の正確かつ詳細な実態を把握することが不可欠だ」と提言しています。誰が、いつ、どこで、どれくらいの農地を取得したのか、その目的は何なのか。これらの情報なくしては、適切な対策を講じることはできません。

経済安全保障上の課題や相互主義の問題点を象徴するイメージ。日本の土地政策の議論を視覚化。経済安全保障上の課題や相互主義の問題点を象徴するイメージ。日本の土地政策の議論を視覚化。

まとめ:日本の土地を守るために

日本の農地が、静かに、しかし確実に外国籍の個人や外国法人によって取得されている現状が見えてきました。最新データの一部は示されたものの、過去の実態は不明瞭であり、外資規制の緩さや、特定の国との間の「相互主義」の崩壊といった構造的な問題も抱えています。

これらの動きは、単なる土地取引の問題にとどまらず、日本の食料安全保障、水源地の保全、さらには国家の経済安全保障全体に関わる重要な課題です。正確な実態把握を急ぎ、必要に応じて規制のあり方を見直す議論が、今まさに求められています。

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