墓じまいの増加:背景にある日本の社会変化と「無縁墓」問題

親や祖父母から受け継いだ墓をどのように守っていくかは、現代社会において「いざ」という時に直面する深刻な問題です。特に、後継者がいない、あるいは遠方に住んでいるために管理が難しいといった理由から、「墓じまい」を選択する人が日本で急速に増えています。これは、遺骨を新たな方法で供養する現代的な選択肢として注目されており、日本の社会構造の変化を色濃く反映していると言えるでしょう。

「墓じまい」とは何か?増加する理由

「墓じまい」とは、既存の墓を撤去して更地に戻し、墓地の管理者に土地を返還した上で、遺骨を別の場所に移す供養方法を指します。遺骨の新たな移転先としては、他の墓地への改葬や、海洋散骨などが挙げられます。厚生労働省の「衛生行政報告例」によれば、2023年度の改葬件数は過去最高の16万6886件を記録しました。この統計は墓じまいの件数と完全に一致するわけではありませんが、近年その件数が著しく増加している実態を示しています。

この増加の背景には、いくつかの社会的な要因が存在します。最も大きな要因の一つは、少子化の進行です。厚生労働省の人口動態統計によると、日本の出生数は2024年に過去最低の68万6061人となり、出生率は1.15まで低下しています。これにより、そもそも墓の後継ぎがいない家庭が増加しているほか、家庭に一人しか子どもがいない場合、その一人に両親や祖父母、さらには親戚の墓まで守るという大きな責任が集中してしまう現状があります。また、一人っ子同士が結婚するケースでは、将来的に夫婦で双方の実家や親戚の複数の墓を管理する負担が生じ、これが墓じまいを選択する大きな動機となっています。多くの人が子どもに負担をかけたくないという思いから、この決断を下しています。

核家族化と都市部への人口集中がもたらす影響

かつて当たり前だった「一族で代々墓を承継する」という慣習は、核家族化の進展や、人々が自由に住む場所を選べるようになったことで、途絶えつつあります。都市部への人口集中により地方の過疎化が深刻化し、故郷に残された墓を定期的に管理・維持することが非常に困難になっています。

国立社会保障・人口問題研究所の「第9回人口移動調査」(2023年)によると、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県といった首都圏では、人口の4〜5割が実家以外の地域や海外から移り住んできた「流入層」です。例えば、東京都の人口約1442万人のうち、約4割にあたる580万人が流入層であると仮定すると、多くの人が将来的に「実家のお墓問題」に直面することが予想されます。大阪府、愛知県、福岡県などの大都市圏でも同様の傾向が見られ、この状況が「遠方で管理が大変」「跡継ぎがいない」「子どもに負担をかけたくない」といった墓じまいを検討する主な理由として挙げられています。

墓石が並ぶ墓地のイメージ写真墓石が並ぶ墓地のイメージ写真

放置される「無縁墓」の深刻な問題

墓じまいが増加する一方で、お墓が放置される「無縁墓」のケースも増えています。これらは、長年にわたり墓参りの形跡がなく、管理料が滞納され、墓地の契約者と連絡が取れない状態の墓を指します。近年、この無縁墓が原因で、土地が荒廃したり、不法投棄が増加したりするなど、さまざまな社会問題が発生しています。

墓石などの構造物は原則として持ち主の財産であり、その撤去には相当な手間と費用がかかります。このため、第三者が勝手に処分することが難しく、所有者が不明になってから1年、長い場合は10年近くの待機期間を経てようやく撤去が行われる自治体もあります。その間、管理費は入らず、公営墓地が無縁墓を撤去する際には、その費用は当然ながら税金で賄われることになります。これは、墓じまいが進む一方で、放置された墓が社会全体に新たな負担をかけるという複雑な状況を生み出しています。

まとめ

日本の社会が少子化、核家族化、そして都市への人口集中といった構造的な変化を経験する中で、「墓じまい」は現代的な供養の選択肢としてますます普及しています。しかし、この動きの裏側では、適切に管理されない「無縁墓」が増加し、土地の荒廃や税金による撤去費用の負担といった新たな課題も生じています。故人の尊厳を守りつつ、変化する社会に対応した持続可能な供養のあり方を模索することが、今後の日本社会にとって重要な課題となっています。