6月5日に放送されたテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」では、日本の食料問題における重要なテーマ、特にコメの流通とその適正価格を巡る白熱した議論が展開されました。この日、番組には元JA全中常務理事で「新世紀JA研究会」常任幹事を務める福間莞爾氏が生出演し、番組レギュラーコメンテーターである玉川徹氏(元テレビ朝日社員)らと、現在の複雑なコメの流通システムやJAの役割、そして価格形成のあり方について見解を交わしました。本記事では、この注目の議論における両氏の主要な主張と衝突のポイントを詳細にレポートします。
政府備蓄米放出と流通スピードの格差
議論の背景には、政府による備蓄米の放出がありました。特に、過去に3回行われた一般競争入札による放出と、小泉進次郎元農林水産大臣が進めた随意契約による放出の間で顕著に見られたスピード感の「格差」が、改めてコメ流通の効率性や構造に対する関心と疑問を高めていました。この政府の緊急的な対応策が、既存のコメ流通システム、とりわけJAが長年担ってきた役割に光を当て、議論の糸口となったのです。
日本の食卓に欠かせないコメ:流通と価格が議論の的に
JAの役割に対する玉川氏の視点とドンキの指摘
番組内で玉川氏は、まず一部で上がるJA批判に対し、「JAが今まで担ってきた流通は『早く届ける』ことを主目的としていない。政府がコメの値段高騰を受けて早く届けたかったから迅速な方法を取ったのであり、早くないから悪だという話ではない」と一定の理解を示し、「JAを悪者にしてもしょうがない」と述べました。これは、JAの流通システムが持つ別の目的や制約があることを示唆するものでした。
しかし同時に玉川氏は、「小泉大臣もコメの流通は複雑だという話をされている」ことに触れ、「中間マージンが少なければ少ないほど、最終価格は安くなる」という流通の基本原則を指摘しました。そして、今回の随意契約による備蓄米放出に申請したディスカウント大手「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が政府に提出した意見書に言及。この意見書で、PPIHが集荷を担うJAグループとの取引における参入障壁の高さや、「最大5次問屋まで存在する」とされる多重構造が、現在のコメ流通の問題点として指摘されていたことが紹介され、議論の焦点となりました。
福間氏の反論:協同組合の特性と中間業者の存在理由
MCの羽鳥慎一氏が、JAなどの集荷業者が小売業者と直接取引すれば中間マージンが省かれ、消費価格が下がるのではないかという指摘を福間氏にぶつけました。これに対し福間氏は、「私的に申し上げると、理屈が合わない」と明確に反論しました。福間氏は、農協が協同組合であり、「生産者の皆さんからは高く買って消費者の皆さんには安く提供する」という、一般企業とは逆の、中間マージンをできるだけ省略しようとする組織目的を持っていると主張。流通のスピードについて「共同組織なので皆さんの合意が必要で多少(遅くなること)はあるかもしれない」と認めつつも、「余計なマージンをとっているとか、ため込んでいるとかいうことは全然ない」と、JAが不当な利益を得ているという見方を否定しました。
PPIHの指摘する参入障壁については、「自由ですから、ドンキさんが農家や農協とやろうと言えば、いくらでもできます。何の規制もない」と述べ、障壁はないとの認識を示しました。
「羽鳥慎一モーニングショー」でコメ流通問題に切り込む玉川徹氏
多重構造の必要性 vs. 直接流通の現実
玉川氏は、「消費者に安く届けようというのが農協の使命としたら、多重構造を通るより、ドンキに直接卸す方が消費者に安くいく場合、JAはどうするんですか?」と追及しました。これに対し福間氏は、「元々、1次から5次まで問屋があると言われるが、理由があって存在している。理由のない組織はありません」と、中間業者が存在する必然性を強調しました。「意図的につくっているわけではない」とし、各段階の問屋が、集荷、小分け、精米、包装など、それぞれ重要な役割を分担していると説明しました。
しかし玉川氏は、今回の政府備蓄米の随意契約による放出で、大手スーパーが間の問屋を介さずに直接消費者に販売できた「現実」があるではないかと指摘。福間氏は、それは「『超高速道路』という(政府の随意契約の)仕組みがあったからできている」特別な事例だと反論しました。玉川氏は、たとえ政府が輸送費用を出しているとしても、「流通を担っているのは流通業者。不可能ではない」として、問屋を介さない流通自体は可能であることを主張。これに対し福間氏は、「問屋があるのは、それぞれ理由があって、あるわけで。間に入っているから高くなるんじゃないか、とか、そういう理屈はあまり通らない」と、改めて中間業者の必要性を訴えました。
さらに議論は白熱し、玉川氏が「今回、間の問屋を飛ばしても実際に流通ができた」と事実を突きつけると、福間氏は「普通の場合は、通す『理由』があるんですよ」と応酬。玉川氏が「(今回は)可能、不可能でいえば可能だった」と言うと、福間氏は「いやいや。それは『高速道路』には負けますよ」と譲らず、玉川氏から「高速道路みたいな抽象的な言い方をしてはだめですよ」とたしなめられる場面もありました。福間氏は、現在の備蓄米放出は「実体経済には関係ない」と主張しましたが、玉川氏は「実体経済ですよ」と反論し、両者の間でコメ流通の現状に対する認識の相違が鮮明になりました。
市場競争と淘汰の可能性
議論の終盤、玉川氏は、もしドンキのような小売業者が大規模生産者から直接コメを買い付け、自社で流通・小売まで一貫して行うことで、最大5次問屋まで存在するJAが構築してきたルートよりも安く消費者に提供できるのであれば、市場競争の原理によってJAのルートは淘汰されるのではないかと指摘しました。
これに対し福間氏は、「それができるならどうぞ、おやりになればいい。自由経済ですから」と応じましたが、その実現性や、仮に実現したとしても流通全体が大きく変わるわけではない、というニュアンスもにじませました。結局、コメの流通のあり方、特に中間業者の役割や多重構造の評価を巡る両者の議論は、最後まで完全に意見が一致することなく、それぞれの立場の違いが浮き彫りになる形で終了しました。
結論
「羽鳥慎一モーニングショー」での元JA全中常務理事・福間氏と玉川氏によるコメ流通に関する議論は、日本の複雑な農業流通システム、JAの組織特性、そして中間マージンが最終価格に与える影響という、長年指摘されてきた課題を改めて浮き彫りにしました。福間氏が主張する多重構造や中間業者の「存在する理由」と役割分担の重要性、そして玉川氏が指摘する中間コスト削減の可能性と新しい流通モデルの出現。両者の主張はかみ合わない部分が多く見られましたが、これは消費者にとって最も関心の高い「コメの適正価格」に直結するテーマであり、今後の日本の食料供給と流通のあり方を考える上で、継続的な議論が必要とされる重要な課題であると言えるでしょう。
参考資料
https://news.yahoo.co.jp/articles/0c2fc14e9d1afa33e5e48070a1a52166ae154480