一般的な「住みたい街ランキング」では見過ごされがちながら、その居住性の高さで知られる東京都北区の十条。特に、東京三大銀座の一つにも数えられる「十条銀座商店街」が有名ですが、この街にはもう一つの顔があります。それは、長きにわたり庶民の娯楽を支えてきた「大衆演劇の街」としての魅力です。本記事では、十条が育んできた独自の文化、そしてその象徴である「篠原演芸場」の歴史と奥深さを掘り下げます。
東京三大銀座に劣らない十条の魅力
JR十条駅(北区上十条1)の北口を出てすぐの場所に広がる「十条銀座商店街」は、約370メートルにも及ぶアーケードが特徴的な、東京都北区最大級の商店街です。170以上の店舗が軒を連ね、活気に満ち溢れています。商店街の入口からしばらく進むと、右手に「十条銀座東通り」が伸び、ここもまたアーケードで覆われています。この通りを抜け、JR埼京線の踏切を渡ると、その先は「十条中央商店街」へと続きますが、この道は現在、「演芸場通り」として親しまれています。
庶民の娯楽「大衆演劇」とは
「大衆演劇」と聞いても、若い世代にはあまり馴染みがないかもしれません。明確な定義はありませんが、大衆演劇とは、歌舞伎やミュージカル、文学色の濃い演劇とは異なり、庶民を対象とした娯楽性を重視した演劇を指します。多くは時代劇をベースにした任侠ものや股旅ものが題材となり、一つの公演の中に舞踊や演歌ショーなどが盛り込まれるのが大きな特徴です。日々の暮らしの中で気軽に楽しめる、身近なエンターテインメントとして愛され続けています。
大衆演劇の舞台に立つ劇団美松の役者たち
73年の歴史を誇る「篠原演芸場」
演芸場通りを歩くと、ひときわ目を引く朱色の外壁を持つ劇場が現れます。それが、この地で73年もの歴史を紡いできた「篠原演芸場」(北区中十条2-17-6)です。有限会社篠原演劇企画の3代目社長である篠原正浩さんは、この演芸場の歴史について語ってくれました。「大衆演劇のルーツは、江戸時代に旅芸人が各地で行っていた旅芝居にあると考えています。私の曾祖父もまた、埼玉県を拠点に旅回りの興行師として活動していました。終戦から2、3年後、曾祖父の興行を手伝っていた私の祖父が、埼玉県から東京へ拠点を移し、一旗揚げようと十条にやってきたのが、篠原演芸場の始まりです」と篠原社長は説明します。初代がこの地に劇場を構えて以来、篠原演芸場は十条の文化の中心として、多くの人々を魅了し続けています。
まとめ
十条は、賑やかな商店街の裏で、日本の伝統的な庶民文化である大衆演劇が息づく珍しい街です。「篠原演芸場」は、その73年にもわたる歴史の中で、旅芝居の精神を受け継ぎながら、地域の人々に娯楽と感動を提供してきました。単なる「住みやすい街」にとどまらない、深い歴史と文化が息づく「大衆演劇の街」十条の魅力は、これからも多くの人々を惹きつけ続けることでしょう。


