11月7日の衆議院予算委員会、そして12日の参議院予算委員会を皮切りに、高市早苗首相は野党との本格的な論戦に臨んでいます。就任後初の予算委員会となる今回、首相としての手腕とともに、その「言葉力」に注目が集まっています。高市首相の発言をどのように捉えるべきか、米ユタ大学の東照二教授(社会言語学)の分析を基に探ります。
高市首相の「抗争的談話スタイル」
東教授は、高市首相の言葉には「直接的な敵対言語的要素が非常に強く、抗争的談話スタイル」がある特徴を指摘します。これは、意図的か無意識かにかかわらず、その言葉によって「戦う相手」を作り出す発言様式です。
典型的な例として挙げられるのが、7日の衆院予算委員会での台湾有事を巡る「存立危機事態」発言です。米中対立の激化が懸念される台湾有事について、高市首相は集団的自衛権を行使できる「存立危機事態になりうるケース」と答弁しました。これに対し中国側は内政干渉だと反発し、中国の薛剣・駐大阪総領事がSNS上で「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやる」と投稿する騒動に発展しました。
高市早苗首相、2025年11月12日の参院予算委員会で笑顔を見せる
安倍元首相との比較:敵対対象の明確さ
高市首相は、故安倍晋三元首相の後継者を自任しています。安倍元首相もかつて「自虐史観に陥った一部の勢力」といった言葉で敵対心を示すことがありましたが、対象を明確に限定することはありませんでした。一方で、東教授は高市首相について「対象を限定していて、より具体的です」と分析しています。
その具体性が表れたのが、自民党総裁選での外国人観光客に関する発言です。「奈良の鹿を足で蹴り上げるようなとんでもない人がいる」と述べたことで、外国人への差別を助長するとして批判を浴びました。10日の衆院予算委員会では、この発言について立憲民主党の西村智奈美議員から「外国人に対する誹謗中傷が危惧される」「撤回すべきだ」との質問がありました。これに対し高市首相は「英語圏の方でしたけれども、鹿の脚を蹴っているといった行為に及んだ方について注意をしたことがあります」と“具体的に”答弁し、「撤回するわけにはまいりません」と続けたのです。
表現スタイルの相違:官僚的堅実さ vs 情緒的訴求
東教授は、高市首相と安倍元首相の発言スタイルには他にも相違点があると指摘します。高市首相の表現は「きわめて行政官僚的な面もある」とされます。法律や制度用語を多用し、「私の職責」「閣僚として当然」といった言葉から、自身の役割を中心に据えて語るタイプです。その言葉からは、官僚的な緻密さと堅さが感じられます。
対照的に、安倍元首相は情緒や感情を込めて語るタイプでした。例えば、2021年度の近畿大学卒業式典でのスピーチでは、「負けない」「くじけない」「立ち上がる」といったメッセージを、社会に巣立つ卒業生へ非常に分かりやすく訴えました。政治においても「未来への責任」や「戦後レジームからの脱却」といった、自身の内面的な意思を語る表現が多く、「私の使命」「この道しかない」といった言葉にその傾向が表れていました。
結論
高市早苗首相の「言葉力」は、その具体的で抗争的な発言スタイルによって、予算委員会という場で際立っています。東照二教授の分析からは、安倍元首相との比較を通じて、高市首相の行政官僚的かつ具体的な言葉遣いが、良くも悪くも注目を集め、時に物議を醸す背景が浮かび上がります。今後の国会論戦においても、その「言葉」がどのような影響を与え、どのように受け止められていくのか、引き続き注視されるでしょう。
参考文献:
- Yahoo!ニュース (2025年11月16日). 高市早苗首相の「言葉力」が問われる本格論戦…歴代首相の演説分析を手掛ける米ユタ大教授が徹底分析.
https://news.yahoo.co.jp/articles/4a7c3bf76568b7188c7df4e758014da022d0be53





