墨田区 京島:人情あふれる「奇跡の街」に潜む現実

東京都墨田区の京島は、大手メディアの住みたい街ランキングには無縁ながら、地域住民は口を揃えてその「人情の厚さ」を語る独特な下町です。都内でも有数の木造住宅が密集する「木密地域」として、第二次世界大戦中の東京大空襲を奇跡的に免れた歴史的街並みがそのまま残るこの街は、古き良き日本の地域社会の姿を今に伝えています。しかし、その魅力的な古い街並みの陰には、現代都市におけるある「現実」が潜んでいます。

スカイツリーを背景に東京都墨田区京島の下町を歩くスカイツリーを背景に東京都墨田区京島の下町を歩く

京島の魅力:失われゆく人情と歴史的街並み

下町文化の中でよく語られる「人情」という言葉は、抽象的で目に見えにくいものとされがちですが、京島ではそれが具体的な人間関係や地域の繋がりとして確かに存在すると言われています。現代社会で希薄になりがちな温かいコミュニティの絆が、ここでは色濃く息づいています。人によってはその親密さを「暑苦しい」と感じるかもしれませんが、多くの住民はこの街ならではの魅力として捉えています。

京島は、京成曳舟駅から南東側一帯、十間橋通りまでを含むエリアです。この地域には、大正時代から昭和初期にかけて建てられたとみられる木造長屋が今なお多く残っており、独特の景観を形成しています。これは、周辺地域が壊滅的な被害を受けた東京大空襲から、このエリアの一部が奇跡的に焼け残った歴史的背景によるものです。地域の交流拠点である「キラキラ茶屋」のような場所は、こうした歴史を持つ街の中で、住民同士が気軽に集い、支え合う大切な役割を果たしています。

墨田区京島に残る東京大空襲を免れた木造長屋の街並み墨田区京島に残る東京大空襲を免れた木造長屋の街並み

隠れた現実:木密地域に潜む災害リスク

一方で、古い木造建築が密集している木密地域である京島は、地震などの自然災害に対して脆弱であるという現実的な課題を抱えています。東京都都市整備局が2022年に公表した「地震に関する地域危険度測定調査(第9回)」では、建物倒壊危険度において京島の一部が都内ワーストクラスの上位にランク付けされるという厳しい結果が出ました。地域社会では、この危険性から目を背けることなく、キラキラ茶屋などで危険度調査の結果をパネル展示するなど、住民間で災害リスクを共有し、防災意識を高めるための様々な努力が行われています。

結論:歴史と課題が共存する地域社会の姿

東京都墨田区京島は、戦災を免れた歴史が育んだ独特の人情と魅力的な木造長屋の街並みを色濃く残す一方で、現代都市における地震などの災害リスクという無視できない課題に直面しています。この街が持つ古き良き地域社会の姿と、向き合わねばならない現実的なリスクの共存は、東京という巨大都市の中で多様なあり方を見せる地域社会の一つの典型であり、その維持・発展における課題を示唆するものです。