【香港に生きる】「デモじゃなく戦争なんです」





インタビューには応じたが「髪も耳も見せられない」と覆った香港の勇武派の女性

 香港のデモ参加者には大別して2種ある。「和理非(平和、理性、非暴力)派」と「勇武(武闘)派」だ。デモの最前線で警官隊と激しい衝突をするのが勇武派で、女性の姿も少なくないのが気になっていた。

 知人を介して勇武派の女性に会えることになった。指定された場所で想像を膨らませて待っていると、意外にも、小柄でえくぼのかわいい女性が現れた。

 フェートさん、28歳。昼間は事務職員をしている。英語で「宿命」を意味するその名前は、自分で付けたニックネームである。

 「区議会選で民主派が圧勝しました。選挙も抗議手法として有効だと思いませんか」と質問してみた。

 「選挙?」と静かに笑った。「確かに美しい。でも民意が(政策に)反映されなければ無意味です」

 今、保釈中の身である。

 17日夜、炎が燃えさかる香港理工大の正門付近で警官隊と対峙(たいじ)していた。ゴーグルと防毒マスクを装着し手には盾を持っていた。

 火炎瓶を投げる勇武派の仲間たちを、警官隊の催涙弾やゴム弾から守るのが彼女の役目だ。催涙弾の破片などを浴びて負傷したこともある。ゴム弾が顔の近くを横切ったことも。「明らかに警察は頭を狙っている。つまり、やるかやられるか、戦場なのです」

 17日深夜、警察に大学の周りを完全に包囲され、脱出できずに逮捕された。

 初めて前線に出たのは6月12日。逃亡犯条例改正案に反対するデモだった。補給係としてヘルメットやゴーグル、傘を前線に運んでいたその日、警官隊の催涙弾の嵐に見舞われた。若者らも激しく抵抗して衝突、70人以上の負傷者が出た。

 香港政府が改正案の審議を無期限に延期すると発表したのは3日後。6月9日に主催者発表で100万人のデモが行われても、民意を無視していた政府が、ようやく折れた。

 「和理非派は(抗議手法が)美しいか否かで判断しがち。でも私たちがやっているのはデモではない。中国から自由を守るための戦い、戦争なのです」

 --怖くないのですか?

 「怖くても前線に出なければならない。私たちが怖がるのを喜ぶのは政府だけ」「前線に何度も出たら覚悟はできる。私たちが戦わなければ誰が戦いますか」

 静かな笑みが消えた。

 政府を支持する親とは口を利いていない。和理非派の恋人とは別れた。「彼を守るためです。私が警察に逮捕されてしまい、彼に累が及ぶといけないので…」

 写真を撮っていいですかと聞くと、耳と髪が見えないように手で覆ってカメラの前に座った。

 「私にはまだやるべきことが残っているから」

 彼女にとって今、香港に生きるということは、こういうことなのだ。(香港 藤本欣也)



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