小泉進次郎農相が公約通りコメ価格の引き下げを断行したことで、政界に波紋が広がっている。支持率低迷にあえぐ石破茂首相や自民党執行部は、進次郎氏の抜群の人気に活路を見出そうとしているかのようだ。一時は与党惨敗も囁かれた夏の参院選も、この「令和の小泉劇場」の幕開けにより、情勢は大きく変化しつつある。党内では早くも「首相待望論」が浮上するなど、進次郎氏を巡る動きから目が離せない。
首相待望論と盟友たちの期待
進次郎劇場はどこまで続くのか、自民党内では「首相待望論」が急浮上している。父・純一郎氏は、支持率が一桁台に落ち込んだ森喜朗内閣の後を受け、郵政民営化で国民の支持を得て自民党を危機から救った経緯がある。
コメ価格引き下げを主導し、自民党内で首相待望論が高まる小泉進次郎氏の写真
純一郎氏の盟友として知られる山崎拓・元自民党副総裁は、進次郎氏の言動を「親父譲り」と評し、「問題提起も解決策も直球勝負の正面突破」と指摘する。山崎氏は「正直、次の総理にはまだ早い」としつつも、「コメの件で成果を挙げれば、今までのチャラチャラしているという評価を払拭できる」「国民は喝采し、人気も回復する」と期待を寄せる。さらに「そうなれば、いずれ行なわれる自民党総裁選で今度こそ党員投票で1位を取れるかもしれない」「少数与党である自民党の起死回生を担う期待の星になるでしょう」と語る。
小泉内閣で官房副長官を務めた杉浦正健・元法相も期待を隠さない。杉浦氏は「純一郎は郵政に立ち向かった。今度は息子の進次郎が農業・農協の改革を行なうことになるだろう」と語り、郵政民営化と同様に農協は自民党の強力な支持基盤であるため、党内からの強い反発は必至だとみる。その上で、「それを乗り越えて日本の農業の将来を切り拓くことができるかどうかに彼の将来がかかっている」と、進次郎氏の今後の試練と可能性を示唆した。
政府備蓄米バーゲンの仕掛け人は誰か
しかし、今回の政府備蓄米バーゲンの仕掛け人は、実は進次郎氏本人ではない。その筋書きを描いたのは、石破官邸だったと見られている。石破側近は明かす。「自民党で農政に最も詳しいのは石破総理と林芳正・官房長官だ。2人とも農相経験者でコメ流通の問題点をよくわかっているから、官邸は米の価格を下げるために競争入札から随意契約への変更、売り渡し価格の大幅引き下げ、買い戻し条件をつけないなどのプランを検討してきた」。
この側近は、農水族で思い切った改革ができなかった江藤拓・前農相の失言による更迭が、この方針転換にとって絶好のタイミングだったと指摘する。そして、自民党農林部会長時代に農協改革に取り組んだ経験があり、特定の農業団体にしがらみがない進次郎氏が、コメ安売り担当相として抜擢されたと説明する。抜擢の理由はそれだけではないという。進次郎氏は2012年の総裁選以来、一貫して安倍晋三元首相ではなく石破氏を支持してきた。石破首相は「世代交代を進めるのが私の役割」と公言しており、進次郎氏を意中の後継者と考えているとされる。
「総理は自分の後は進次郎に任せたい。そのためにも目に見える功績をあげさせたい。だから“責任は全部オレが取るから、あらゆる手段を使ってコメの価格を下げろ”と進次郎に指示した」と前出の側近は語り、石破首相から進次郎氏への政権禅譲を見据えた布石でもあることを示唆した。
さらに、進次郎氏に農相就任を打診したのは、石破政権の大黒柱であり「自民党農水族のドン」と呼ばれる森山裕・幹事長だ。進次郎氏が農相就任前の会見で語ったところによると、森山幹事長から打診を受けた際、進次郎氏から「今この局面で大事なのは、組織団体に忖度しない判断をすること」だと伝え、「それでよろしいですか」と確認したところ、森山氏が「それが大事だと思う」と応じたという。その森山氏は、進次郎氏による備蓄米値下げ販売について、「大臣の対応は、当然のことをしっかりやっていただいたと思う」と公に太鼓判を押している。
結論
小泉進次郎農相によるコメ価格引き下げは、単なる農業政策にとどまらず、支持率回復を目指す石破政権の戦略と、将来の首相候補としての進次郎氏を育成する側面を併せ持つと言える。農業改革という難題への挑戦は、進次郎氏の政治家としての真価が問われる場となるだろう。夏の参院選に向けて、「令和の小泉劇場」が情勢をどう左右するのか、その行方が注目される。