いま、若者から中高年まで「退職代行サービス」の利用が広がっている。退職を妨害されたり、精神的な問題を抱えたりして、自力での退職が難しい状況にある人々にとって救世主となる一方で、その手軽さから繰り返し利用する「リピーター」まで現れているという。さらに、サービスを提供する側が驚くような依頼理由も存在する。一体、「退職代行」の現場では何が起きているのだろうか。
退職代行モームリが明かす驚きの利用実態:急増する依頼とリピーター
「退職代行モームリ」は、2024年の1年間で約2万件の退職代行を扱った実績を持つ。2025年4月には依頼件数が2200件を超え、月間予測では新卒者400人を含む3000件が見込まれるなど、その需要は急拡大している(4月22日時点)。同サービスを運営するアルバトロス代表の谷本慎二氏によると、リピート利用率は全体の約3%だという。「リピート利用は半額になる割引制度がありますが、これは友人の利用にも適用されます。リピート率自体は高くないものの、中には頻繁に利用される方もいらっしゃいます」。具体的な例として、40代のIT系男性が「退職手続きが面倒」という理由で短期間に5回利用したり、40代の主婦がアルバイトを辞めるために5回利用したりするケースがあるという。リピーターは30代から40代が多い傾向にあるとのことだ。
退職代行モームリのオフィスと従業員たち、急成長を象徴
しかし、中にはサービス提供側も対応に困るような依頼理由で退職代行を依頼してくる利用者も存在する。「退職代行モームリ」の従業員である河野萌香氏は、驚きのエピソードを語る。依頼者の勤務先に退職意思を伝える電話をした際、「辞めるのはいいけど、あの人がやった横領の件どうするの?」と、依頼者から一切聞かされていなかった衝撃的な返答があったという。
横領、盗撮、不倫…「困った依頼者」たちの背景とサービスの対応
河野氏はさらに、「困ったのは『盗撮』のケースです。社内では依頼者が犯人であることがほぼ特定され、警察の取り調べも進んでいる状況なのに、問題を解決せずに途中から面倒になって逃げるように退職を希望された方がいました」と明かす。また、社内不倫が周囲に知られる前に「こっそり辞めたい」という依頼が男女双方から寄せられるケースもあったという。谷本氏によると、不倫のようなプライベートな事情はさておき、横領や盗撮など、依頼者が意図的に会社に隠していた不正行為が絡む場合は、状況によっては契約を解消することもあるそうだ。
退職代行モームリ代表・谷本氏が語る社会への願い
退職代行が示す「不健全な社会」という問題提起
様々な事情や思惑から退職代行への依頼は増え続けている。しかし、谷本氏はこうした現状に対して「退職代行が流行る社会が不健全なんです」と警鐘を鳴らす。「理由や事情は様々ですが、そもそも今のような『退職代行に頼らないと辞めさせてもらえない』社会自体が少し異常だと思います。退職代行サービスを使うことで『辞めグセ』がつくのではないか、と懸念する声もありますが、それ以前に、辞めたい人が自分で会社と話し合ってきちんと辞められる、本来あるべき健全な社会であってほしいと強く願っています」。
結論:社会の歪みが退職代行需要を生むのか
退職代行を利用する人々、そして繰り返し利用するリピーター。彼らの存在は、個人の事情だけでなく、「辞めたくても辞められない」という現代社会の労働環境や人間関係における構造的な歪みが招いた結果なのかもしれない。退職代行サービスの需要拡大は、社会の健全性を示すバロメーターとも言えるだろう。
参考文献
日刊SPA!