ライターとして活動する傍ら、様々な職場でスキマバイトを経験している筆者が、その中で見えてきた悲喜こもごもを綴る。今回は、都内にある某大手通信企業の本社ビル内にある社員食堂でのランチタイムの仕事に挑戦した時の話だ。新しい場所での短期バイトには、期待と共にいつも少しの不安が伴うものだ。
時間通りに勤務地に到着し、担当の女性マネージャーに迎えられた。入館パスを受け取り、社員食堂があるフロアへエレベーターで向かう。窓から広がる素晴らしい眺めに、この日の仕事への気分が高まった。控室で着替えを済ませた後、社員やパートスタッフに混ざって朝礼に参加し、その日のランチメニューや業務連絡が共有された。一日限りのスキマバイトとはいえ、チームの一員として迎え入れられた感覚は新鮮で興味深い経験だった。朝礼後は厨房に移動し、食材の仕込みを手伝うことになった。メインプレートの横にキャベツとマカロニサラダを盛り付ける作業だ。
この日は通常よりも多くの来客が見込まれており、仕込み量は膨大だった。現場は混乱気味で、食堂のオープン時間までに作業が終わるか不安になったが、皆で協力し、なんとか間に合わせることができた。仕込みが終わると、次の持ち場である洗い場へ移動した。
洗い場はベルトコンベアー式のシステムで、お客様が使用済みの食器をトレーに乗せると、自動的に食洗機へ運ばれて洗浄される。私の担当は、食洗機に入れる前の食器の仕分け作業だった。この仕分けが適切に行われないと、食洗機が詰まってしまうため、非常に重要な工程だと説明を受けた。女性マネージャーからは、「コップを取り除き、専用のカゴに並べる」「小皿やお椀は丼の中に入れる」「お箸やスプーンは別のカゴに仕分ける」「燃えるゴミ、燃えないゴミを分別してバケツに入れる」といった口頭での説明をざっくりと受けただけで、すぐに持ち場につくことになった。正直、細かい手順や優先順位は十分に理解できていなかったが、「とりあえずやってみよう」と作業を始めると、ベルトコンベアーには驚くべき量の食器が次々と流れてきた。
大手企業社員食堂でのスキマバイトのイメージ。一時的な働き方と職場環境の課題。
受けた説明を思い出しながら、目の前の食器を一つずつ処理していく。しかし、作業の優先順位や効率的な方法は伝えられていなかったため、手間取り、作業が滞りがちだった。そんな中、食べ残しを燃えるゴミとして捨てようとした時、洗い場の責任者らしき威圧的な雰囲気のおじさまが現れた。「食べ残しはそのまま! 食洗機で処理するから!」と強い口調で言われ、戸惑った。「そのような説明は受けておりません」と内心思いつつも、「失礼しました」と返答した。
その後も、その”ボスおじさん”からの指導は続いた。しかし、それは丁寧な指導というよりは、問題が発生した際に「流れるトレーの間隔を空けないと食洗機が詰まる」「コップはカゴに5列に詰めろ」といった、事前に全く説明を受けていないことを、まるで当然知っているべきかのように、キレ気味に指示されるものだった。作業のフォローをしてくれる瞬間もあったが、全身から「こいつ、全く使えないな」というオーラを発しており、その威圧的な態度に非常に不快な思いをした。このようなタイプの人は久しぶりだった。
とはいえ、私にできるのは、目の前に山積みになる食器たちを、できるだけスピーディーに、そして指示された方法で処理していくことだけだった。コップを取り除き、小鉢やお椀を丼に重ねる作業を優先的に行った。必死に手を動かしたが、大量に運ばれてくるトレーを処理しきれず、食洗機の手前で食器が滞留し、詰まってしまった。すると、「おい! 詰まってるだろうがっ!!」と再びボスおじさんが怒鳴りながらやってきた。目の前の作業に手一杯で、どうにもならない状況だっただけに、その言葉にはうんざりするしかなかった。このスキマバイトは、不慣れな現場での作業の難しさと、職場の人間関係、特に不十分な初期指導と威圧的な態度をとる同僚という、短期雇用ならではの課題を強く感じさせられる経験となった。