東映は、東京都練馬区にある東京撮影所において、大型LEDパネルを導入した「バーチャルプロダクションスタジオ」を関係者向けに公開しました。このスタジオは、俳優と仮想の背景をリアルタイムに合成して映像を制作する最新技術、「バーチャルプロダクション」を用いており、同種の常設スタジオとしては国内最大級の規模を誇ります。テレビドラマ「相棒」シリーズなどの撮影にも既に活用されています。
東映は、この新しい映像制作手法に対応するため、2022年10月に社内にバーチャルプロダクション部を設置し、スタジオ自体は2023年に完成しました。
スタジオ設備は非常に先進的です。直径12メートルの円形ステージを取り囲むように、周囲270度にわたって壁状のLEDパネルが設置されています。この壁面パネルは高さ5メートル、幅30メートルにも及びます。さらに、天井にも12メートル×11メートルのLEDパネルが備えられています。これらの高精細LEDパネルに、コンピューターグラフィックス(CG)で作成された映像や事前に撮影された実写映像などを投影することで、仮想の「ロケ地」環境を作り出します。俳優がパネルの前で演技を行うと、まるで実際にその場所で撮影しているかのような臨場感のある映像が完成します。
バーチャルプロダクションの具体的な活用例としては、マンションの一室などの美術セットをステージ上に組み、窓の外に見える風景をLEDパネルに映し出すことで、現実のセットと仮想の背景を自然に融合させた撮影が可能となります。これにより、従来のロケーション撮影では難しかった、多様な時間帯や天候、または現実には存在しない場所での撮影が容易に行えるようになります。
メリット:効率化と労働環境改善
バーチャルプロダクションスタジオ最大の利点は、撮影効率の大幅な向上と制作コストの削減です。従来のロケーション撮影のように、撮影隊が遠隔地へ移動する必要がなくなるため、移動にかかる時間や費用が削減できます。また、天候に左右されることなく撮影を進められるため、撮影期間の短縮にも繋がります。例えば、夜のシーンを撮影したい場合でも、日没を待つ必要はなく、景色の映像を切り替えるだけで対応可能です。
こうした効率化は、長時間労働になりがちな俳優や撮影スタッフの労働環境改善に大きく貢献しています。定められた時間内に計画通りに撮影を終えやすくなるため、拘束時間の短縮や負担軽減が期待できます。
実際の活用例と俳優の声
東映は、2023年12月からこのバーチャルプロダクションスタジオを自社作品を中心に本格的に活用しています。既にテレビドラマ「相棒 season23」の撮影にも利用されており、特に車両の走行シーンなどでこの技術が用いられたとのことです。
主演を務める水谷豊さんは、スタジオ公開に際し、最新技術への期待を寄せるコメントを発表しました。「以前なら牽引(けんいん)車で引っ張って実際に道路を走って撮影していたのだと思うと、目の前のまさに新しい時代の訪れに、心の中で拍手を送る思い」と述べ、バーチャルプロダクションがもたらす撮影環境の変化に感銘を受けた様子でした。
「相棒」は長ぜりふが多いことで知られていますが、水谷さんは「これまで俳優にとって車の走りはかなりのプレッシャーだった。その余計なプレッシャーから解放されて自由に芝居ができること」を強調しました。さらに、「車の走りに限らず、特に危険を伴う撮影など、俳優と撮影チームにとっては願ってもない環境。間違いなく次期相棒です。笑」と語り、安全性向上と表現の自由度が高まることへの大きな期待を示しました。
東映のバーチャルプロダクションスタジオで行われた撮影デモンストレーション。LEDパネルに映し出された背景と俳優を組み合わせた映像制作の様子。
デモンストレーションの様子
この日の公開では、スタジオの機能を紹介するデモンストレーションも行われました。空港の出発ロビー、趣のある日本庭園、そして京都撮影所の時代劇セットといった様々な背景映像をLEDパネルに映し出し、東京撮影所に所属する俳優による演技を披露しました。これにより、バーチャルプロダクションがいかに多様なシーンに対応できるか、そしてその映像がどれほどリアルであるかが示されました。
結論として、東映のバーチャルプロダクションスタジオは、日本の映像制作における技術革新の最前線を示すものです。この最新スタジオの稼働により、制作の効率化、コスト削減、そして俳優・スタッフの労働環境改善が進むと共に、映像表現の可能性がさらに広がることが期待されます。
参考文献:
- Yahoo!ニュース (毎日新聞) – 東映、国内最大級バーチャルプロダクションスタジオ公開 「相棒」撮影にも