大阪地検元検事正 性加害事件:被害女性検事のキャリアを奪う二次加害の深刻な実態

大阪地検で発覚した元検事正による部下の女性検事への性加害事件は、社会に衝撃を与えています。ジャーナリストの柴田優呼氏は、被害者の女性検事(ひかり氏・仮名)に取材。ひかり氏は、健康な心身だけでなく、検事として築き上げてきたキャリアや収入までをも奪われそうになっている状況に対し、強い怒りを感じているといいます。この大阪地検の性加害事件において、二次加害が被害者をいかに追い詰めているか、その深刻な実態が見えてきました。

大阪地検元検事正の性加害を訴え、記者会見を行う女性検事(ひかり氏)。二次加害の実態を社会に訴える。大阪地検元検事正の性加害を訴え、記者会見を行う女性検事(ひかり氏)。二次加害の実態を社会に訴える。

性暴力「一次加害」後の「二次加害」とは

性暴力そのものである「一次加害」を経験した被害者が、その後に直面するのが「二次加害」です。二次加害は、被害者を取り巻く環境、特に職場などの組織内で起こることが多く、周囲からの心ない言動、不適切な対応、孤立、被害を訴えたことへの報復など、様々な形で被害者を精神的に追い詰め、最悪の場合、自死に至らしめる可能性もある極めて深刻な問題として認識されています。しかし、性暴力そのものを防ぐための取り組みと比較すると、二次加害を防ぐための社会的な動きは、いまだ十分とは言えません。

職場での二次加害:大阪地検とフジテレビの事例

実際の事例を見ると、この二次加害がいかに現実的な影響をもたらすかがわかります。かつて問題となったフジテレビと中居正広氏の件では、第三者委員会の調査により、フジテレビ上層部の不適切な対応、例えば被害を軽視したり、被害者の訴えを真摯に受け止めなかったりといった姿勢が、元アナウンサーである被害女性への二次加害を生んだことが明らかになりました。そして、大阪地検の元検事正による事件でも、被害者の女性検事ひかり氏は、職場内で多くの二次加害に晒されています。

これらの結果、フジテレビの被害女性はアナウンサーの仕事を断念し退職。検事のひかり氏も職場復帰が困難になり、休職せざるを得ない状況に追い込まれています。被害者であるにも関わらず、二次加害が原因で、これまで懸命に積み重ねてきたキャリアや仕事ができなくなるという不条理な事態が生じているのです。

権力勾配が生む性加害と軽視される女性のキャリア

性加害は、多くの場合、組織内で加害者と被害者の間に存在する、地位や経験年数に基づく「権力勾配」が利用されて行われます。キャリアの初期段階や中盤にある被害者に対し、組織の上位にいる加害者がその立場を悪用するケースが見られます。しかし、前途ある彼女たちの将来が、このような形で絶たれてしまうこと自体への問題提起や、重要視する声は社会的にまだ少ないのが現状です。これは、男性に比べて女性のキャリア継続が十分に尊重されない、結婚や出産を機に退職を想定されたり、収入を「補助的」と見なされたりといった、日本社会の構造的な問題を反映していると言えるでしょう。

退職による経済的損失と日本のジェンダーギャップ

性暴力の被害は表面化しにくい「暗数」が大きいと言われます。今年1月には、X(旧ツイッター)で「#私が退職した理由」「#私が退職した本当の理由」といったハッシュタグと共に、多くの女性が自身の経験を発信しました。その投稿の中には、性被害を告発しても組織が適切に対応せず、二次加害が続く状況に耐えかねて退職したという体験談が少なくありませんでした。

PTSDなどで以降働くことが困難になるケースもあり、問題の深刻さは計り知れません。さらに、たとえ退職後に再就職できたとしても、多くの場合、賃金や待遇、勤務条件が悪化する傾向にあります。これは、日本における男女間賃金格差が国際的に見ても極めて大きいこと、新卒者採用が重視される「新卒至上主義」の文化、そして女性を福利厚生や雇用の安定しない非正規雇用として安価に使うことが常態化しているといった社会的背景があるためです。

こうした状況下では、女性が性加害や二次加害によって退職を余儀なくされることによる経済的損失は、非常に大きなものとなります。同時に、企業や社会全体にとっても、貴重な人材が流出することによる社会的損失は計り知れないはずです。しかし、この側面はこれまであまり問題視されてきませんでした。性加害行為そのものが明るみに出ないまま、加害男性は同じ職場で働き続け、被害を受けた女性だけが心身の健康、そして将来のキャリアや収入といった多くのものを失うという結果になっているとすれば、これほど不条理なことはありません。

大阪地検の元検事正による性加害事件から見えてくるのは、性暴力という一次加害だけでなく、その後の二次加害がいかに被害者の心身とキャリアを深く傷つけ、経済的損失をもたらすかという深刻な現実です。特に女性の場合、既存のジェンダーギャップにより、退職キャリアや収入においてより大きな痛手となり、不条理な結果を招いています。加害者ではなく被害者が、自身の未来を奪われる状況を是正するためには、二次加害の防止と、性暴力被害者が安心してキャリアを継続できる社会の構築が不可欠です。

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