千葉県松戸市の新興住宅地で発生した痛ましい事件で、生後約4か月の長男を殺害したとして母親が逮捕された。この母親は、事件発生のわずか10時間ほど前に児童相談所に対し育児に関する不安を訴え、SOSを発信していたことが判明した。この悲劇は、一見平穏で幸せそうに見えた一家の自宅で起こった。
事件の経緯と母親の逮捕
捜査関係者によると、事件は5月28日午前1時2分、母親本人からの110番通報「子どもを殺した。浴槽に沈めた」によって発覚した。通報から約9分後、駆けつけた千葉県警松戸署の警察官が自宅に入ると、まず夫が応対し、その後、奥の部屋から乳児を抱いた母親が現れた。乳児はぐったりした状態で、搬送先の病院で死亡が確認された。
県警松戸署は同日、長男の暁人くん（生後約4か月）を自宅の浴槽内の水中に沈めて殺害したとして、母親で会社員の福井未紗容疑者（33）を殺人の疑いで逮捕した。福井容疑者は「育児をしていく自信がなくなってしまい行為におよびました」と容疑を認めているという。犯行は午前0時ごろとみられており、これは通常、乳児を入浴させる時間帯ではない。
千葉県松戸市の乳児殺害事件現場で捜査を行う県警
平穏な生活の裏側
一家が暮らす松戸市の新興住宅地にある一戸建ては、夫が5年前に約3500万円の住宅ローンを組んで購入したという。自宅前にはチャイルドシート付きの電動アシスト自転車が置かれ、小窓からは花瓶や絵画が見えるなど、ハートフルな生活がうかがえる様子だった。室内には愛犬用の小型スロープもあったという。
一家は、亡くなった暁人くんの他に幼い長女との4人暮らしだった。一般的に生後4か月頃の乳児は、周囲への興味が増し、手を伸ばしたり、睡眠のリズムが安定してきたりする時期とされる。育児経験のある福井容疑者が、なぜこの時期に育児への自信を失ったのかが焦点となっている。
悲劇直前に児相へ寄せられたSOS
福井容疑者は、犯行前日の5月27日午後2時ごろ、児童相談所の虐待対応ダイヤル「189（いちはやく）」に自ら電話をかけていた。電話は県の柏児童相談所につながり、容疑者は「子ども（暁人くん）がなんで泣いているのか、わからないんです」などと育児の悩みや自身の体調不良について訴えたという。
同県の児童相談所改革室担当者によると、この電話は直接的な虐待告白ではなかったものの、育児のつらさや不安が強く感じられ、単なる育児相談ではなく児相として積極的な介入が必要な案件だと判断された。虐待通告であれば48時間以内の安全確認が義務付けられるが、今回はそれとは異なる相談であったにも関わらず、児相側はなるべく早い対応が必要と考えた。そのため、当日午後6時ごろには母親に電話をかけ、「今日の夜にでも行きますけど」と、同日中の家庭訪問を提案していた。
まとめ
松戸市で発生したこの痛ましい事件は、生後間もない我が子を手にかけてしまった母親が、その数時間前に公的な支援機関に助けを求めていたという衝撃的な事実を浮き彫りにした。福井容疑者は育児への自信喪失を動機として供述しているが、悲劇を未然に防ぐ機会はなかったのか、改めて育児に悩む親へのサポート体制や、児童相談所の対応のあり方について社会に問いを投げかけている。
