高齢化が急速に進む現代社会において、夫婦間での「老老介護」は避けて通れない深刻な課題となっています。特に、モラルハラスメント(モラハラ)体質の夫から義父母の介護を一方的に押しつけられ、心身ともに追い詰められる女性たちの現実は看過できません。介護の重圧と精神的な暴力に耐えかね、ついに熟年離婚という選択に至った女性たち。本記事では、介護とモラハラから解放された3人の女性(※記事の都合上、2人目の女性のケースは途中で途切れていますが、文脈に沿って構成します)の決断と、その後に待ち受けた男性たちの結末、そして法的な側面について掘り下げていきます。
「長男の嫁だから当たり前」義父介護と暴言に耐えた55歳女性の苦悩
東京都内に暮らす女性(55歳)は、夫(63歳)から長年にわたり「長男の嫁なんだから義父の介護は当たり前だろう。嫌なら出て行け」といった暴言を浴びせ続けられました。このような介護をめぐるモラハラに耐えきれず、約5年前の別居を決意します。
大学を卒業した子どもたちが独立し、子育てが一段落して安堵したのも束の間、同居していた80代の義父の介護が始まりました。義母はすでに他界しており、女性が義父の食事の支度、デイケアへの送り出し、病院への付き添いといった一切を、約5年間にわたり担ってきたのです。夫は義父の介護を女性に任せきりで、感謝の言葉一つありません。「もう一緒にいることが耐えられない」と感じた女性は、弁護士に相談しました。
法的な観点から見ると、原則として義親を介護する義務は妻にはありません。民法第877条には「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と明記されていますが、直系血族ではない義理の娘や息子への言及はないためです。しかし、法的に介護を拒否することは可能であるものの、一方で夫婦には互いに助け合う義務があるため、夫が自身の父親の介護を行う場合には、妻には夫を助ける責任が生じると解釈されます。
弁護士からは、「介護モラハラだけでは、夫が離婚を拒否した場合に成立させるのは厳しい」とのアドバイスを受けました。これは、裁判所が離婚を認めるには、婚姻関係が破綻していることを示す明確な証拠が必要とされるためです。
老老介護の現実と熟年離婚を考える高齢夫婦
別居5年で掴んだ自由:元夫の末路と新たなシングルライフ
しかし、別居が長期間にわたれば(一般的に5年以上)、状況は一変します。民法770条の「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」として、裁判所が離婚を認める可能性が高まるのです。女性は預金通帳と身の回りのものだけを持って家を出ました。別居中も、収入が多い方の配偶者は少ない方の配偶者に生活費(婚姻費用)を渡す義務があるため、女性は毎月の婚姻費用を弁護士を通して夫に請求しました。
夫はすでに会社を定年退職し、再雇用されていたものの給与は大きく減少していました。月額十数万円に及ぶ婚姻費用の支払いが重くのしかかり、ほどなくして夫は離婚を承諾するに至ります。離婚が成立すると、夫婦で築いた財産を原則として半分ずつ分け合う「財産分与」が行われます。これは離婚の理由とは関係なく行われるため、女性が義父の介護をしなくなったからといって、共有財産の半分をもらえなくなるわけではありません。
住んでいた自宅は義父名義だったため財産分与の対象にはなりませんでしたが、夫の退職金を含む預貯金の半分(1000万円超)と年金分割に応じることで合意し、離婚が成立しました。女性は「さっぱりした」と語り、今では新たなシングルライフを満喫しています。介護とモラハラの重圧から解放され、自分自身の人生を取り戻したのです。
半身不随の義母を介護中、夫の不貞行為が発覚した48歳女性のケース
首都圏に住む女性(48歳)は、夫(50歳)の母親(70代)が数年前に半身不随となり、義母を介護する日々を送っていました。夫の実家は先祖代々の地主であり、近隣でガソリンスタンドを経営したり、多くのアパートや貸家の大家をしたりしていました。
夫は一族の不動産などの管理はしているものの、普段は働かずにブラブラと過ごしていました。そして、常に「女性の影」がちらついていたのです。夫が携帯電話を隠すなど不審な行動を取り始めたため、女性が入浴中に夫のLINEを盗み見たところ、他の女性と浮気していることが明らかになりました。
結び
これらの事例が示すように、「老老介護」と夫からの「モラハラ」は、多くの女性にとって深刻な苦しみの原因となっています。しかし、法的な知識を持ち、専門家である弁護士に相談することで、新たな道を切り開くことが可能です。義親の介護義務や夫婦間の扶養義務、そして離婚時の財産分与や年金分割といった制度を理解することは、自分自身の権利を守り、困難な状況から抜け出すための第一歩となります。決して一人で抱え込まず、専門機関や信頼できる人に相談し、自分らしい「第二の人生」を選択する勇気を持つことが重要です。
参考文献
- 朝日新聞取材班『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)





