イスラエル軍がイランの核開発関連施設などを空爆し、イランが反撃したことで、中東情勢は不透明感を増している。トランプ米大統領は中東の地域大国サウジアラビアとイスラエルの国交正常化の仲介に意欲を示してきたが、中東専門家は今回の攻撃で早期実現は難しくなったと分析。一方、核施設を攻撃されたイランが追い詰められ行動をエスカレートさせれば、石油を中東に依存する日本にも甚大な影響が及ぶ恐れがある。
■中東の安定化目指してきた米政権
「イランに対するイスラエルの露骨な侵略を強く非難し、糾弾する。イランの主権と安全を損ない、明確に国際法と国際規範を犯している」
サウジ外務省は13日発表の声明で、イスラエルに批判の矛先を向けた。イスラム教スンニ派の盟主でもあるサウジは、長らく対立関係にあったシーア派のイランと2023年3月に国交を回復。昨年10月にも、イランからの攻撃に報復したイスラエルを非難していた。
トランプ米政権は現在、中東安定化を目指してイスラエルとアラブ諸国の国交正常化の仲介を進めており、最重要国がサウジだった。外務省で長年、中東外交の実務に当たった日本国際問題研究所の中川浩一客員研究員は「サウジがイスラエルと国交を正常化するのはもともと難しかったが、これでさらに困難になった」と見通す。
第1次トランプ政権は20年8月、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の間で国交を正常化する「アブラハム合意」の仲介に成功。同合意はバーレーン、スーダン、モロッコに広がった。今年1月に米大統領に返り咲いたトランプ氏は最初の本格的な外遊先にサウジを選び、首都リヤドでの会合で「アブラハム合意は将来、多くの国を加えることで前進し続ける」と訴えた。
■アラブのリーダー、サウジに足かせ
サウジでは、次の国王と目されるムハンマド皇太子が石油依存経済からの脱却を進めており、前提となるのが中東情勢の安定だ。そのサウジにとって、イスラエルとの国交正常化は決して悪い選択肢ではない。
ただ、イスラエルが攻撃するパレスチナ自治区ガザの人道危機にもかかわらず、イスラエルとの関係改善を進めれば、アラブ諸国のリーダーとしての面目を失いかねない。サウジ政府が今年2月に発表した声明で、「パレスチナ国家樹立なくしてイスラエルとの国交正常化はない」と強調したのはこのためだ。