亡くなった配偶者の親族との関係を法的に解消する「死後離婚」、すなわち姻族関係終了届の提出が近年増加傾向にあります。これは日本の家族観や高齢化社会における扶養の問題と深く関わっており、注目されています。この記事では、「死後離婚」の法的意味、増加の背景、そして届け出を検討する際に知っておくべき注意点について詳しく解説します。
姻族関係終了届とは?法的な扶養義務の有無
姻族関係終了届は、生存している配偶者が、亡くなった配偶者との姻族関係を一方的に終了させるための公的な手続きです。役所に「姻族関係終了届」を提出することで完了します。これは、戸籍上の苗字を旧姓に戻す復氏届とは別の手続きであり、必ずしも旧姓に戻る必要はありません。
民法上、配偶者が死亡しても姻族関係は自動的には終了しません。しかし、生存配偶者が亡くなった配偶者の親族(義父母、義兄弟姉妹など)に対して法的な扶養義務を負うことは、原則としてありません。扶養義務は、直系血族や兄弟姉妹など、血縁関係のある親族間に生じます。そのため、実親や実兄弟がいない、あるいは扶養が困難な場合に、亡くなった配偶者の生存配偶者(嫁や婿)に負担がのしかかるケースが見られますが、法的にはその義務はないのです。
役所に提出する「姻族関係終了届」と「復氏届」の書式
届け出件数の推移とその背景
法務省の統計によると、2023年度の姻族関係終了届の届け出件数は3159件に上ります。ピークだった2017年度の4895件からは減少したものの、2021年度の2934件、2022年度の3065件と、近年は再び増加傾向に転じています。
この背景には、結婚観の変化、特に「家」制度的な考え方の希薄化があります。また、夫に先立たれた妻の場合、義父母から「嫁いできたのだから、これからも色々やって」と期待され、価値観の違いや負担から関係が悪化し、法的な関係を断つことを選ぶケースが多く見られます。高齢化が進む中で、自身の老後や生活の負担を考慮し、姻族との関係を整理したいと考える人も増加の一因です。
届け出の注意点と専門家のアドバイス
姻族関係終了届は、生存配偶者の一方的な意思表示のみで提出でき、役所に受理されればその効果が発生します。一度受理されると、原則として取り消しはできません。この不可逆性が、届け出を検討する上で最も慎重になるべき点です。
重要な注意点として、生存配偶者と亡くなった配偶者との間に子がいる場合、子にとって、亡くなった配偶者の親(生存配偶者にとっては義父母)は血縁上の祖父母であることに変わりはありません。そのため、子が代襲相続人として祖父母の遺産を相続する権利は依然として存在します。「死後離婚」によって姻族との関係が悪化した場合、将来的に遺産分割協議などでトラブルになるリスクも考慮する必要があります。
ガーディアン法律事務所の園田由佳弁護士は、「届けを出した後に後悔することのないよう、慎重に判断することが極めて重要です」とアドバイスしています。法的な関係解消が、感情的な関係や将来的な親族間の協力を難しくする可能性も十分に検討すべきでしょう。
結論
「死後離婚」は、亡くなった配偶者の親族との法的な関係を解消する有効な手段ですが、その決定は不可逆であり、特に子どもがいる場合は将来にわたる影響を慎重に考慮する必要があります。法的な義務の有無だけでなく、個々の家族の状況や感情的な側面も踏まえ、専門家への相談を含め十分に検討した上で判断することが求められます。
朝日新聞社
Yahoo!ニュース