近年、太陽光発電事業は、自然災害による設備の損壊や金属ケーブル盗難といった新たなリスクに直面し、事業者が加入する損害保険料の急騰が収益を圧迫しています。加えて政府の固定価格買い取り制度(FIT)の順次終了も重なり、多くの事業者にとって採算悪化による大量離脱が懸念されています。この状況は、使用済みパネルのリサイクルなど将来的な課題にも悪影響が出かねません。
太陽光発電施設で急増する金属ケーブル盗難
警察庁の発表によると、昨年1年間に全国の太陽光発電施設で確認された金属ケーブル窃盗の認知件数は7054件に上り、前年から1693件増加しました。この急増の背景には、脱炭素化の世界的な流れの中で再生可能エネルギー導入に不可欠な銅の国際的な需要が高まっていることがあります。非鉄金属価格の上昇が盗難を誘発している状況です。
太陽光発電パネルが設置された施設の様子。保険料高騰やケーブル盗難など事業継続の課題に直面している
盗難増加が招く保険料高騰と事業への影響
金属ケーブルなどの盗難被害は2023年以降特に顕著となり、保険会社の保険金支払額が急増しています。あいおいニッセイ同和損害保険は、「太陽光発電設備の保険引き受けにおける収益性が著しく悪化」と現状を説明しており、各社の損害保険の引き受け条件は厳格化し、自前での防犯カメラ設置といった対策状況に応じた保険料の差も出てきています。国民民主党の竹詰仁参院議員が保険会社2社から情報提供を受けた事例では、福岡県の業者の年間保険料が2019年42万円だったのに対し、2024年は165万円と約4倍に高騰。茨城県の業者でも、同様に32万円から146万円に増加しました。保険料負担が売上全体の15%に達するケースもあり、竹詰議員は「高すぎても仕方がない、という域を越えている」「事故を起こしていない太陽光にも高い保険料がかかるようになれば、事業が成り立たなくなる」と強い懸念を示しています。
FIT制度の終了と収益性の低下圧力
収益悪化のもう一つの要因は、政府による再生可能エネルギー由来の電気の固定価格買い取り制度(FIT)です。この制度は、政府が一定期間、決められた価格で再エネ電気を買い取ることを保証するものですが、2032年以降順次期間満了を迎えます。また、制度開始当初と比較し、新規認定案件に対する買い取り価格水準も年々引き下げられており、事業者にとって以前のように安定した収益を見込むことが難しくなっています。
倒産・休廃業の増加と将来の課題
こうした逆風の中、帝国データバンクの調査では、太陽光発電を含む再生可能エネルギー発電事業者の2024年度倒産、休廃業・解散件数は過去最多の52件に上りました。脱炭素化の進展で再エネ需要は高まる見通しにも関わらず、担当者は「コストが見通しにくく、企業に利益が出るかが不透明」な状況が経営を圧迫していると指摘しています。事業者の淘汰が進む過程で、経営に行き詰まった事業者が適切な手続きを経ずに使用済みパネルを放棄するといった問題が増加する恐れもあり、関連する課題が山積しています。(調査:帝国データバンク)
まとめ:複合リスク下の太陽光発電事業
太陽光発電事業は現在、金属ケーブル盗難や自然災害による設備損壊といったリスク、これに伴う損害保険料高騰、そしてFIT制度終了に伴う収益不確実性の増大という、複合的な経営リスクに直面しています。これらの要因による採算悪化は事業者の淘汰を加速させ、倒産や廃業を引き起こすだけでなく、さらには使用済みパネルの不適切な処理といった新たな社会課題を顕在化させる懸念が高まっています。持続可能な太陽光発電事業の環境整備に向け、実効性のある対策が急務となっています。