政府・与党が物価高対策の一環として、夏の参院選の公約に盛り込む見通しの「現金給付」を巡り、実務を担う地方自治体から懸念や反発の声が相次いでいる。これは、国の政策実施における地方の負担や、国と地方の役割分担といった長年の課題を改めて浮き彫りにしている。
11日には、政府・与党が全国民に対し一人あたり2万円、さらに住民税非課税世帯へ2万円を追加給付する案を検討していると報じられた。13日には石破茂首相が、国民一人あたり2万円の給付を検討するよう自民党に指示したことを明らかにした。これに加え、子ども一人あたり2万円、住民税非課税世帯の大人一人あたり2万円を上乗せする考えも示唆している。
賛否が分かれる現金給付案だが、執行主体となる地方自治体からは、その根本的な仕組みに対する疑問の声が上がっている。
千葉県の熊谷俊人知事が「無駄」と苦言
千葉県の熊谷俊人知事は11日、自身のXアカウントで「また、政府が現金給付を検討。それを実施するのは全国の市町村公務員」と投稿し、問題提起を行った。「『どうせ今後も選挙の度に現金給付するんだから、国で一元的に給付作業をする効率的な仕組みを作りましょう』と何度も何度も提案しているのですが、いつまでも自治体任せです」と、恒常的な対応を国に求めているにも関わらず改善されない現状を批判した。
千葉県の熊谷俊人知事、物価高対策現金給付の自治体負担に言及
熊谷知事は、この作業によって「本来の市民福祉等に充てるべき職員稼働と、国民の税金が膨大に奪われます」と指摘。「全国民への給付自体にも賛否があるでしょうが、それ以前になぜもっと合理的・効率的な仕組みを普段から作らないのか、自分の金だったら、自分が給付作業をするのなら、もっと真剣に考えるのではないでしょうか」と、国の非効率な対応を批判した。さらに、「せめて現金給付を発案した国会議員と国家公務員は全員、地方自治体に来て、この給付事務に従事してみてはいかがか」と提案し、「国を批判したいわけではなく、何度も繰り返す、この無駄で、自治体を疲弊させる話にうんざりしています」と、現場の疲弊を訴えた。
吉村大阪府知事、高島芦屋市長らも同様の疑問
大阪府の吉村洋文知事も14日、熊谷知事の発言に賛同する意を示した。「全国民に2万円配る事務は、自治体がやる。自治体に人件費も労力もかかる」と述べ、現金給付よりも「給料天引きされる社会保険料を下げた方がいい」と対案を提示した。「社会保険料は今後も右肩上がりで上がっていく。国は人口減少化の社会保障制度を真剣に考えてもらいたい」と、より抜本的な社会保障制度改革の必要性を訴えた。
兵庫県芦屋市の高島崚輔市長も同日、自身のXで「地方自治体は、国の下請けなんでしょうか」と率直な疑問を呈し、「物価高騰対策をしたいのは理解しますが、どうか、やり方を考えていただきたい」と、実施方法の見直しを求めた。高島市長は、新型コロナウイルス感染症対策として実施された特別定額給付金を例に挙げ、「作業はすべて市区町村の職員が行いました」「給付金事業は『市区町村が自らやりたいと名乗り出た』ことになっています」と説明。給付金事業が、国が義務付ける「法定受託事務」ではなく、自治体が任意で行う「自治事務」として扱われている形式に違和感を表明した。
「あくまで地方自治体が、『自治事務』として自らやりたいと名乗り出て、国が財源を負担する形になっています」「これって何か、おかしくありませんか。うちの市だけ給付しません、は事実上困難です」と、形式と実態の乖離を指摘。「どこの市区町村が早く給付したかを競わせるような報道もあり、職員の精神的な負担が増している」と、迅速な対応が求められることによる現場のプレッシャーについても言及した。財源は国が負担するものの、「でも、結局業務を担うのは市区町村の職員なんです」。
高島市長は、「いくら追加で人を雇っても、チームを率いるのは正規職員です。2020年も、多くの職員が元の業務を返上して携わったと聞いています」と述べ、緊急時の給付対応が職員の本来業務を圧迫する問題を強調。このような自治体のリソースを割く対応が常態化することに疑問を呈した。最後に、「地方自治体は、国の下請けではないはずです」とし、「そろそろ、国でやるべきことと、地方でやるべきこと。地方の現状を理解した上で、整理しなければならないのでは」と、国と地方の適切な役割分担と連携のあり方について、抜本的な議論が必要だと訴えた。
今回の政府による現金給付検討を巡る地方自治体の首長からの相次ぐ発言は、国の政策決定プロセスにおいて、現場の実情や執行能力が十分に考慮されているか、また国と地方のあるべき関係性について、改めて問いを投げかけている。
出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/7c9201daa07630f325ae7606bf9be3b1982a9569